Story F2

□すべて閉じ込めて見ないフリ
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水泳に集中したいんだ。
淡々とした口調。
綺麗なブルーの瞳に見つめられて拒むことはできなかった。
遙から水泳を奪ったら、きっと遙は干からびてしまう。ううん、橘くんが前言ってたみたいに死んでしまうかもしれない。
だから、邪魔できないよ。



肌触りのあまり良くないシーツに包まれた感触。少しずつハッキリしてくる頭と視界。気怠い体に、そうか。って思い出してそいつの腕の中から起き上がった。
「あ、起きた?」
名前すら思い出せないそいつは着替えようとする私の腰に腕を巻きつけた。
「すっごいよかった。俺たち相性がいいんだよ!だからもっかいしようぜ」


別にどうだっていい。
返事をしない私に肯定と受け取ったのかシーツを引き剥がすそいつ。
近づいた体からタバコの匂い。
遙は男のくせにいい匂いだった。
無意識に遙のことを思い出して嫌になる。別れたのはもう半年前なのに私の中から全然出て行ってくれない。
遙のこと忘れたいのに。
首に腕を巻きつけて抱きつけば気をよくしたそいつに体を委ねる。
まぶたの裏に焼きついた遙ごと忘れさせて。




いつも相手はナンパしてきた人だったり、逆ナンしたり。女子高生、そのブランドを見せつけるように、制服で街に行けば立ってるだけで声をかけられる。それを断らずに受け入れてるだけ。
たまにお金を渡してくるやつもいる。
私はそんなつもりで話に乗ったわけじゃない、けど何となく受け取った数枚のお札に罪悪感はなかった。
これが私の値段。
ドキドキした。
回数を重ねるごとに心が満たされて、居場所を見つけた気がした。
そんなことを繰り返して、いつの間にか遙のことも何とも思わなくなっていった。

だから3年に上がって同じクラスになって、遙の前の席になってもあの頃みたいにドキドキなんてしない。
やっと、遙から解放されたんだ。


「ねぇ、今日合コンあんだけどさぁ、人数足んないだよねぇ。名前来てよ」
類は友を呼ぶとはこのこと。
ふしだらなことしてたら、自然と似たようなことしてるやつが寄ってきた。
まぁ気を使わなくていいから楽。
「合コンってめんどくさい」
「あー、まぁ気持ちはわかるけどぉ、T大の医学部で頭いいし皆金持ってっから」
バカッぽい話し方の彼女は、人数足んないからお願い!って必死。
「まぁ、別にいいけど」
「やったぁ!名前マジ好きぃ!」
はいはいって抱きついてくる彼女を適当にあしらってると、後ろの席に人が戻ってきた。
昼休みもあと少し。震えるケータイには名前と顔が一致しない男からのメール。
「誰ぇ?」
「んー、ひろあき」
「名前誰かわかってないでしょ」
抱きついてた腕を離して前の席に座った彼女。黙ってれば割と可愛いのに。
「んー」
「彼氏欲しいとか思う?」
「え、何、急に」
「いやー、実はちょっと気になる人がいてさぁ。社会人だから高校生無理っぽいけどぉ」
「ふーん」
「うちらいつまでこのままなのかなって、たまに思ったりして」
訂正。私よりはしっかりしてるかも。
食後のお菓子をポリポリかじりながら聞き流す。私はまだこのままでいい。
楽だし、本気で好きになって辛い別れがあるなら誰とも付き合いたくない。
「まぁ、がんばれ」
思ってもないことを口にして、少し嬉しそうにはにかんだ彼女に胸が小さく痛んだ。
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