短編
□レクイエム
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ラビ「悪い…」
全員に走るしばらくの衝撃と沈黙の末にボートから手を差し出したままの彼が絞り出すように言った言葉だった。
ミランダ「ごめんなさい!ごめんなさいぃぃ!私に……私にもっと力があれば…」
リナリー「そんなっ…」
クロウリー「そんなこと…ウソである……」
ブックマン「桜嬢……」
ここは海の上。
クロス師匠に教団の帰還命令の伝達と帰還の際の護衛のため、江戸に向かっている道中だった。
突然現れたLv3とLv2。
ぼろぼろになりながらもなんとか倒すことが出来た。
これも全部ミランダのお陰だ。
彼女のイノセンスは時間を巻き戻す。
航海に出る前、彼女のイノセンスであるタイムレコードを発動してもらい、船はどんなに攻撃を浴びようとも壊れ沈むことはないと言うことだ。
人に関しても同じように回復するらしい。
ただし注意があった。
それは、回復はするが一時的なもので発動が解ければ全ての傷が自分に返ってくるということ。
降り注ぐAKUMAの弾丸、Lv3の登場。
船には全員居て、喋ることも触ることも出来るが、本当に生きていると言えるのはほんの数人だけだった。
ミランダの体力のこともあり、生き残った数人は乗っていた船を置いて、ボートで江戸へ行くことになった。
今まさに乗り込み出発するところ。
その小舟に私は乗れなかった。
「ラビ、ミランダ…謝らないで。ほら、もう行かないと…」
ミランダ「まだ!まだ大丈夫です!あと少しだけっ…」
ラビ「いつから…なんさ」
「もうわかんないくらい混乱してるときだよ」
ラビ「くそっ…!」
もうどうにもならない現実。
ミランダがくれた数分を無駄にはしない。
「ラビ、愛してくれてありがとう。抱き締めてくれてありがとう。出会ってくれて…ありがとう。こんな言葉じゃ伝えきれないけど…ありがとう。………もう時間がないよ。絶対に立派なブックマンになってね。」
昔、彼が言っていた
ラビ『桜の笑顔は何よりも癒されるさぁ!』
だから彼女は笑った。
辛い運命を背負う彼を少しでも支えてあげられるように。
彼が本当の笑顔を忘れないように。
今までで一番の笑顔で。
「ラビ、さようなら。愛してる」
ボートに近づいて彼の背中に手をまわした。
彼も答えて力強く抱き締めてくれた。
耳元で囁かれた言葉。
もう未練はない。
「みんなも…ありがとう!強く…強く生きて。…………ちょめ助」
ちょめ助「任せるっちょ。」
ちょめ助の持ったボートが海に浮かび、どんどん離れていくのに手を振って見送った。
もう彼の顔は見えなかった。
ミランダの泣き声がかすかに聞こえる。
タイムレコードが解除される寸前なのだろう。
名残惜しさを堪えて甲板の中央に立った。
このまま私が崩れたらきっと、彼は伸で戻ってきてしまう。
パタッ…パタタ…
「あ…あれ?何よ。今頃……?」
彼女は歌った。
それが彼女の最後の仕事だった。
だだっ広いこの海に美しくも悲しい歌声が響き渡る。
死んでいった仲間の為、これからも戦わねばならぬ仲間の為、そして死にゆく彼女の為に歌う最後のレクイエム。
その歌声は空高くへと吸い込まれていき、残された者たちは前へと進んだ。