ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者

□停止教室のヴァンパイア
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かつて、神と魔王が命を落とした戦争よりも以前、天界に一組の兄妹が居た。兄の名はライディーン、妹の名はセイラ。セイラはその優しさ故に堕天したと言われている。一人の悪魔を愛し、二つの種族の争いを終わらせる架け橋になろうとした妹を兄は快く見送った。

そんな、本来ならば悪魔と天使の架け橋になったはずの貴族の家系の名はバラオ家と言い、当主は多くの領民に慕われ当時の魔王達からも信頼されていた家系だった。

だが、その家に最悪の超越者が生まれた。その名はルーシュと言う。バラオ家の領地を本当の地獄へと変えた者は自らを悪魔を超えし者と名乗り、ルーシュ・デモンと名乗り、冥界を支配しようと動き出した。だが、その野望も当時の魔王に討たれる事で絶たれたとされている。だが、ルーシュは魔王との戦いの中で一度も超越者としての力を見せて居なかった。

それ以降バラオ家の名は悪魔の間から忘れ去られ、ルーシュ・デモンの名と行いは禁忌の存在として魔王達のみに伝わる警告として伝えられている。

悪魔を超えし存在、超魔と。






 病院の一室、其処に勇気の姿が有った。ベッドの上で眠っているのはそろそろ一年にもなる幼馴染の少女。

「また来たよ、千莉」

 語りかけても彼女は何も話してくれない。……高校に入学してから部活にも所属せずに毎日こうして彼女のお見舞いに訪れている。……何時でも彼女が目覚めても良い様に。

「千莉は望まないだろう……オレが君の為に罪のない女の子を一人……殺すなんてマネは」

 例えそれが彼女を目覚めさせる唯一の手段であっても、勇気にそれを選ぶ事はできず、また目の前で眠り続けている彼女もそれを望みはしないだろう。分かっているからこそ、勇気は迷っている。

「髪……伸びてないよな。切っている訳でもないのに」

 ゆっくりと髪を撫でる。彼女が入院した時から伸びた様子もなく、手足も衰えている様子もない。……それは衰えや成長も見せない彼女の姿は、時の流れから取り残されたようにも見える。

 それこそが彼女の眠りが奇病と呼ばれる由縁だ。本来なら面会謝絶になりそうな物だが、勇気がお見舞いできるのは、彼女の症状が他者に感染する危険がない事や、ソーナ会長の力を借りている為だ。

 自分は彼女が眠り始めた頃よりも成長しているのに、彼女はあの時のまま眠り続けている。時の流れから取り残された彼女をこのままにはしておけない。手段は有る。だが……決断するのは早い方が良い……悩みすぎては彼女はこのまま永遠に……。

 勇気の腕に浮かび上がるゴッドフェザー状の痣。それが四季がライディーンである証だ。彼女がこうなった理由は知っているが、何も出来ない……。

「話したい事は沢山有るけど……また来るよ」

 学校で渡されたプリントを彼女の枕元へ遠く。そこでふと、そろそろ授業参観が有るのかと思う。

(オレには関係ない話だよな)

 両親は仕事の都合で海外に行っている為に連絡はしていない。自分にとって両親よりも長い付き合いの相手である千莉が眠り続けている事での孤独を感じずには居られない。…………筈なのだが、

「って、そう言えば最近は騒がしくなったな」

 後天的にライディーンになったゼノヴィアの存在である。千莉が目を醒ましたら良い友達になってくれるなと思うと自然と微笑が浮かぶ。

(……まあ、オレも少しは救われているって事か)

 勇気もライディーンの仲間が増えたという事で少しだけ心が軽くなった事を感じている。神を裏切り、かつての仲間が賛同者として加わってくれた時のイーグルはこんな気持ちだったのかと思う一方、イーグル達五人のライディーンと刃を交えたクロウを中心とした五人の『ハーツライディーン』と呼ばれていたチーム。そんな二組のライディーン達が刃を交えている姿が脳裏に浮かぶ。

 それが、一誠がアーシアとリアスに挟まれて鼻血を出したりしている頃の勇気の姿だった。






「冗談じゃないわ!」

 今日も千莉のお見舞いに行こうとした勇気が一誠達に捕まり、オカルト研究部に連れてこられた日、リアスが机に両手を叩きつけながらそう叫ぶ。

「堕天使の総督が私の縄張りに侵入し、私の眷属に接触していたなんて……!」

 一誠が言うには此処最近連日召喚されている人が居て、たいした事のない願いに反して大きな対価をくれる上客だったらしい……。
 先日……最も新しく呼ばれた時、ゲームの相手として呼び出された際にその正体……堕天使総督の『アザゼル』と名乗ったそうだ。

(単なる悪戯なんだろうな……)

 コカビエルを勇気が変身したイーグルが討ち、その羽を白龍皇が持ち帰った後……念の為にイーグルの知識の中に有る『アザゼル』と言う相手の事を調べてみたが……悪戯のような事はするが、コカビエルのような事はしない男だと言う事が分かった。
 イーグルも大戦を戦い抜いた戦闘天使のリーダーで有り、その記憶の中にはアザゼルと言う相手の情報もあった。

「大丈夫よ、私が絶対守ってあげるわ」

 リアスが一誠の肩に手を置いてそう言っているが、

「……オレに何の用なんだよ?」

 放っておいたら何時まで経っても話が進まないと思い、多少空気を読めない発現をしてみた。

「ええ、残念だけどコカビエルに勝てなかった私達ではアザゼルには絶対に勝てないわ、白龍皇にもね」

「それで、オレに何の関係が有るんだ?」

 大体分かってきたが、一応沿う聞き返しておく。

「アザゼルも白龍皇も一誠を狙って私達の前に現れる可能性が高いわ。だから……その時は私達に貴方とゼノヴィアの手を貸して貰えないかしら?」

 対アザゼル・白龍皇対策として、彼らに勝てるであろう力を持った……最低でもコカビエル以上の実力を持った勇気の力を貸してもらいたいと言う事だ。
 白龍皇は赤龍帝との間に有る因縁ゆえに……アザゼルは、

「アザゼルは|神器《セイクリッド・ギア》に造詣が深いと聞くからね」

「やっぱ、オレの|神器《セイクリッド・ギア》を狙っているのかな?」

 木場の言葉に一誠は己の手を見ながらそう呟く。リアスが危惧しているのはアザゼルが一誠の神器を狙っていると言う可能性だ。

「それに貴方の物もそうよ」

「確かに……オレのは神以外が作った始めての神器だからな」

 神器マニアとしては是非とも研究してみたいのだろう。恐らくだが、勇気の神器と通常の神器を比較すれば、人工的に神器を新造できる可能性も出てくるだろう。そう考えるとリアスの言葉も満更冗談には聞こえない。

「そう言う訳で、貴方も私達と協力した方がいいと思うわよ」

「そう言う事か」

 互いの利益の一致から同盟……協力関係を気付こうと言う事だ。確かに元々ソーナ達シトリー眷属と同盟に近い間柄を結んでいる勇気にとって悪い話ではなかった。天使等と言う事に拘りは……最初から持っていないのだし。
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