鬼滅の刃(不死川実弥)
□初見
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あいつは、初めて見た時から実力がずば抜けていた。
「オーイ、大丈夫か?
鬼の頸は斬ったから、もう平気だぞ。」
顔色一つ変えずに淡々と鬼を斬っていく姿を見て、俺は違和感を感じる。
なぜならあいつの持つ刀は、真っ白で、己の身長と同じくらい長かったから。
それでいてその大太刀を持つ腕は細く、一見して構える事すら難しそうに感じる。
だがその剣を振るう速さは、今まで俺が見た事がないくらいに速かった。
「ああ、左腕の出血がひどいな。
とりあえず、これで傷の上からきつく押さえとけ。」
そう言って、あいつと一緒にやってきた少年が俺に清潔な布を投げる。
その向こう側で、木々の間から差し込む月明かりがあいつに当たり、その長い金色の髪の毛が美しく光った。
「・・・・・・頸を斬ると、鬼は死ぬのか。」
あいつの足元で、斬られた鬼が徐々に消えていく。
「そんなことも知らずに鬼狩りをしていたのか。
よく、今まで命があったな。」
少年は呆れたようにそう言うと、鬼の血に濡れた刀を懐紙でぬぐって鞘に戻し、俺の脇にストンと腰を下ろす。
あいつはそんな少年の姿を見ながら、自分の背丈と同じくらい長い刀についた鬼の血を振り払い、背中の鞘に収めた。
「血、止まりそうもないな。
仕方ない、上から包帯できつめに巻くか。」
少年越しに、あいつが真っ直ぐ俺を見る。
済んだ水色の瞳は、ガラス細工のように美しかった。
「あとで、ちゃんと治療しろよ。」
そう言って少年は懐から包帯を取り出し、傷口に押し当てていた布の上から包帯を巻く。
「お前だろ?
隊士でもないのに、無茶苦茶なやり方で鬼狩りしてるって奴。」
ギュッと包帯を縛った瞬間、少しだけ傷口が傷んだ。
奥歯をぎゅっと噛み締めて堪える。
「どうしてそんな真似してるんだ。」
少年の真っ直ぐな目が、俺の目を捉えた。
ゆっくりとその背後から、あいつが近づいてくるのが見える。
思わず少年から目を逸らした。
「・・・・・・醜い鬼どもは俺が皆殺しにしてやる。」
少年の背後で、足音が止まったのが聞こえる。
息が詰まりそうになり、大きく吐き出してから吸った。
「そっか。
でも、そのままじゃいつか死ぬぞ?」
少年の無邪気な言葉を聞いて、その背後であいつが「ぷっ」と吹き出す。
「そんな戦い方じゃ、鬼を皆殺しには出来ない。」
「アァ?」
反射的に睨みつけると、少年の、その後ろにいたあいつもなぜだかニコニコしていた。
それは決して俺を馬鹿にしているニヤケ面ではなく、ただただ俺という存在を喜んでいるような笑顔で・・・。
「俺がお前に『育手』を紹介する。
鬼を皆殺しにしたかったら、強くなれ。」
突然立ち上がった少年は、そう言うと右手を差し出してくる。
あまりの無邪気さに、俺の方が毒気を抜かれた。
「とりあえずは、先に蝶屋敷に行こう。」
少年とは正反対の、雪が降った日の空気のように透き通った声。
一瞬にして俺の体の中を通り抜けていったその声に、なぜか泣き出したくなるくらい感情を揺さぶられた。
「育手に紹介するにも、まずは怪我を治してからじゃないと。」
「そうだね。」
俺の中で張り詰めていた何かが切れてしまいそうなくらい、あいつの声は俺の中に入ってくる。
今すぐ抱きついて、大声で泣き出してしまいそうなほどに・・・・。
「名前、何て云うの?」
登り始めた朝日が、俺たちを照らす。
「不死川実弥。」
「私は冬馬雪寧、こっちは粂野匡近。
よろしくね。」
とうまゆきね。
くめのまさちか。
その名を記憶に刻み込む。
そうして俺たちは出会ったのだった。