短編ごちゃまぜ

□文スト そんな貴方が好きだから
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「......あ。」

誰も居ない所で声をポツリと漏らした。いや、正確には誰も居ないと思っていた。
時刻はとっぷり夜を迎え、辺りは静かである。私は何の力も持たない只の一般事務員。基本、定時には終わらせたいのだが......。今日は仕事量が多かったために終了時間が何時もより時間が掛かってしまった。一応自分が最後だ、という事で念の為に見廻りをしていたのだが......。

「こんな所で寝てると風邪ひきますよ?」

現に一人、私以外にもまだ人が居た。此処の社員でもあり、私の恋人でもある、太宰治が。何時ものあのソファの上で。

「(って......起きてない?)」

薄い毛布は被っていても、季節は昼のポカポカとした暖かさとは違い、夜になれば冷え込むような季節だ。こんな格好で寝ていれば、風邪を引くのは一目瞭然だ。

「太宰ー、起きてー。もう終わったから帰るよー。」

......返事はない。......ホントに寝てるのかしら?訝しげな顔をしながらまじまじとその眠っている顔を見つめる。
何時もは自殺マニアとして周囲から変な目で見られているが、仕事をやれば......。

「(結局は仕事中でも自殺マニア変わらないじゃん。)」

仕事途中で道行く人に美人が居れば「私と心中しませんか?」とか言ってるに違いないわ。
......あれ?これ私只の嫉妬で終わってない?
悪戯気味に軽く彼の頬に触れる。ふふっ、人の寝顔を見るってちょっと面白いかも。

「......寝顔は可愛いんだけどな......。」

そう言って手を離そうとしたら突然長い腕が伸びてきた。突然の事に当然驚く。

「な、何だ......起きてたの?って、ちょっと!!きゃあっ!?」

腕を掴まれたまま其の儘ソファへ略(ほぼ)ダイブ。

太「おはよう朔奈。男性に可愛いって言う言葉は複雑な心境だね。」

「......ふん、別にいいでしょ。何時もの仕返しよ。」

太「私何時も何かしてるっけ?」

「それは......。」

そう言えば付き合ってもう何ヶ月にもなるが太宰に未だにこういう文句を言ったことがない。正確に言えば嫉妬に対しては。

太「ちゃんと言ってくれないと分かんないよ?」

ふっ、とお互いの視線がぶつかる。恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまったが、それを言う事に更に顔に熱が集まる。

「太宰が......」

太「?」

「道行く美人の人に口説いてるってホント?」

......一瞬の沈黙。太宰は少し目を開いてまたすぐ穏やかな顔になった。

太「ふふっ。」

「な、何よ!!こっちは真面目に、っ!?///」

気付いたら上下が逆転していた。さっき迄下で寝ていた筈の彼は何時の間にやら私は天井と彼を仰ぎ見ている。

太「私に対しての嫉妬って訳か。可愛いね、朔奈は。」

「〜っもう!!///何だっていいでしょ!!そうよ、嫉妬よ!!!文句ある!?///」

ぷいっ、と顔を背ける。顔が熱くて恥ずかしい。こんな状況でなら尚更。

太「それなら大丈夫。」

「何がって......!!ちょっ、痛ッ!!!?//////」

首筋に走る痛み。これってもしかして......。

太「私は朔奈と付き合ってから誰にも誘ってないし、今だって朔奈しか見えてないよ。」

そうやって面と向かって言われると恥ずかしい。

「......て事は私の思い違い?」

太「そうなるね。」

クスクスと笑いながら言う彼。恥ずかしさのあまり爆発してしまいそう。

太「今も、そして此れからも朔奈しか愛さないよ。其れは其の為の印ね。」

其れ――――とはつまり首筋のキスマークの事である。

太「......朔奈。」

耳元で色っぽい艶のある声で呼ばれてゾクゾクする。

「此れからは......いえ、此れからも、私はずっと貴方の物です。/////////」


二つの影が一つに重なった、少し肌寒いようで蕩けるような熱い夜―――――――。

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