夢小説『短編』@

□Honey Ginger Tea
1ページ/22ページ

風にやや冷たさを帯びてきた日射しの心地よい秋の昼下がり。
七海子は一口も食べれずにいるお弁当をぼんやりと眺めながら溜め息をふぅ…と小さく吐いていた。

近頃、アルバイト先の珊瑚礁では、冬のイベントに向けて佐伯くん目当てのお客様が勝負を賭けに来るのか連日お店は盛況で、息つく暇もない忙しさだった。
おまけに佐伯くんへのプレゼントは連日カウンターを埋め尽くし、当の佐伯くんは佐伯くん目当てのお客様への対応で仕事が出来ず、毎日イライラしては私に八つ当たりをする。
私は動けない佐伯くんの代わりにせかせかと忙しくホールを回る毎日。

……思い返しては巡る仕事のストレスは私の見も心も蝕んでいた。

「今日もお店、忙しいのかな…。」

ぼんやり空を眺めて心地よい日射しをゆっくり味わう。もうそれで十分な気になってお弁当箱の蓋を静かに閉じた。
自分が所属している陸上部の方も秋は大小と限らず大会が多くて私には体を休める暇がなく、ほとほと疲れ果ているのだ。

「━━……ん……ごはん…って
何でたべるんだっけ……」

灰色の猫の顔をモチーフにしたかわいいお弁当袋にお弁当を仕舞い込んだ。

お弁当を両手に包み込んでベンチに頭を下げて伏していると、背後に当たっていた日差しの暖かさがピタリと消えた。

「やや、ここにいたんですね。七海子さん。
お弁当食べ終わったんですか?」

穏やかな声が背後から聴こえてくる。
私はゆっくり頭を上げて、背後をみた。
そこには白衣をさらっと風に揺らしながら顎に右手の人差し指と親指を添えて背後から間近に除き混む若王子先生の姿があった。

此処のところ良く先生と話す機会が多い。学期が変わってクラスの係に部活、良く先生には頼まれ事もされるようになっていた。
先生が私を探していたのなら、また何かしら頼み事があるのかと私は背筋をやんわり正した。

「今日は、暖かいですねぇ。」

なんていいながらニコニコと何時もの笑顔をむけてくる先生。

今日は何を?
私は少しだけ身構えながら先生をぼんやり見詰めた。

けれど、先生は何時もと少し雰囲気が違うようにも思えた。
先生の顔が何時もより眩しくて、顔の凹凸に差し掛かる影がそうさせるのか?

「七海子さんのお弁当袋ネコなんですね、君らしくて可愛らしいです。」

いつの間にか隣に座る若王子先生を横からぽーっと眺めながらただ、先生の声音を聴いていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ