月刊少女野崎くん

□Haunted house
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お化け屋敷のゲートに並ぶと、夏帆の様子がだんだんとソワソワしている。


確かに待っている間は長く感じて、じわじわと恐怖感が沸き上がってくる気もする

心拍数の上昇を感じた所で、入り口のドアが開き目の前のライドに乗り込んだ


音もなく、真っ暗闇の中へライドがゆっくり進み出すと、ホッとしたように夏帆が呟いた

「良かったぁ〜。歩いて進むタイプのお化け屋敷じゃなくて…実は私、お化け屋敷はあんまり得意じゃないんです」


このタイミングでカミングアウトか?

「なんとなく、知ってた」

こちらも、カミングアウトで応えれば

「…えっ!!」と夏帆が絶句した


「夏帆を見てれば分かるよ、それくらい」

「う…嘘!知ってて誘ったんですか?」

「ダメ、でしたか?」

ただでさえ、近い距離

耳元で、わざと口調を変えて悪戯っぽく囁くと

「…うっ」と、言葉を詰まらせた

夏帆…チョロイなぁ…
クスっと小さく笑ったつもりが


「いじわるっ」

思いの外、不機嫌そうな夏帆の声

そんな可愛く拗ねられると…

参ったな。

もっと反応が見たくなる


「騙されたのが悪いんだ」


その言葉とは裏腹に、そっと夏帆の頬に口づけを落とせば


「もうっ、狡いよ!…誤魔化されませんっ」

期待通りの反応が返ってきた

その間も、密着度満点のライドは、不気味に進み続け、突如現れる怨霊オンパレードなスライドに

夏帆は「ひぁっ」とおかしな悲鳴を上げ、怖くないように繋いでた手には、力が入った


こんな夏帆の姿を見るのも初めてだ…

全部、攫ったはずなのに

まだまだ知らない夏帆の一面に、心臓を鷲掴みされたようにドキドキしている自分がいる

お化け屋敷の恐怖のドキドキではなくて…

そんなことを考えているうちに、そろそろ終盤


急な下り坂で、グルンとライドは反対向きになると、今度はシートがゆっくり倒れライドが徐々に停止していく…


自然と仰向けの姿勢になって、目の前の天井が視界に広がると…

現れたのは、なんとも恐ろしい形相の…女?

髪は逆さに乱れ落ち、徐々にこちらに距離を縮めて来る


同じ状態の他の客からも
「うわっ」

「きゃあっ」

様々なリアクションの声が上がり始めて、場内は些かプチパニックになった


勿論、隣の夏帆も…

「きゃ、あ、ひゃぁ…」
声にならないような悲鳴を上げ、起き上がろうと必死にもがいている


いや、起き上がれないぞ、夏帆…

ベルト固定されてるんだから

「無駄な抵抗は止めて、力を抜いたらどうだ?夏帆、よーく天井を見てみろよ。
あれ、シーザークラウンだ」

「…へ?シーザークラウン?ワンピの?」


「そう」


俺の言葉を聞き入れて
夏帆は、ギュッと瞑っていた目をうっすらと開いた


「ど、どこがあぁぁーっ!!目の前に居る!
なんか、さっきより近い!嫌!来ないでッ!!」

再び絶叫した夏帆の反応は、俺の想像以上だった



おそらく…

これで、夏帆とお化け屋敷に入ることはもう無いな…


すっかり機嫌を損ねた愛しい彼女の頭を慰めるようにゆっくり撫でながら


最近の3Dって…つか、お化け屋敷もリアルだなぁ…と、感心するばかりだった






END
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