名探偵コナン

□トマトに嫌われている。
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お互いに仕事をしているから、家事は分担制。

月曜日の朝食は零くんが当番だ。
テーブルに並べられた献立は栄養バランスもしっかり考えてあって、いつもながら完璧だった。

エプロン姿の零くんが席に着いて、それから。
一緒に"いただきます"をするのが2人のルール。

「「いただきます!」」


ごく普通の平和な朝食風景なのだが……。

今日は、
………………サラダにミニトマトが入ってる!!

箸を持ったまま思わず注視してしまう。
別にトマトがキライではないのだけれど、(どちらかといえば私はセロリの方が苦手だ)

タイミングというかなんというか……。
今日はちょっと間が悪い。
ん、まぁ…それは、

昨夜眠れなくて何気なく見てしまった動画のせいだ。
簡単にいえば、どれだけ"トマトがキライ"かを歌い上げ、終いにはトマトに嫌われていると言い出すトマト教のネタ歌?替え歌だ。

"美味しくないって言うなよ。残さずちゃんと食べろよ……"

そんな歌い出しから始まり、初見はよく意味が分からなかったのだが、じわりじわりと後から、何かが込み上げてくる。
真夜中のテンションは恐ろしい。意味不明さが中毒になって結局、満足するまでリピって寝落ちしてしまった。


そんな経緯があって、トマトはなるべく視界に入れないように……なんて思ったその時、正面にいる零くんはサラダを食べようと、箸でミニトマトを詰まんでいた。

しかし、つるりと箸からトマトが滑り落ちた。
フォークも有るのに、敢えて零くんは箸でトマトを食べようとしている。
味噌汁を咀嚼しながらガン見してしまった!
2度目のチャレンジも空振りに終わりお皿の中で逃げたトマトを鋭く睨み付けて零くんが冷たく言い放った。



「トマトに嫌われている」



うん?わざとか?偶然じゃないよね。
確実に、攻めて来てる!!
なんで?昨夜の秘め事を零くんは知っているの?

だって、隣で眠っている零くんを起こさないように、細心の注意を払って笑いを我慢したというのに!!

今も既に笑ってしまいそうでニヤけるのを我慢している。
咄嗟に、フォークで自分の皿からトマトを刺して零くんの口元へと運んだ。

「零くん、あ〜ん?」
「夏帆が食べさせてくれるのか?」

驚いたように表情を崩して、でもパクっとトマトを食べる零くんは絵になるくらい今日も格好いい。
これで、…………うまく誤魔化せたかな?

すると、今度は零くんが、

「じゃあ、お礼に……夏帆にも食べさせてあげる」と、言い出す始末。

しかも、トマトではなくて…………セロリだ。
フォークには、苦手なセロリが刺さってる!!

「はい、夏帆。あーん!して?」

これは、一見ただのバカップル。
でも、そんな甘くてイチャイチャな雰囲気はまるでないのだ。単なる応酬に近い。
ついでに、安室スマイルの攻撃力は半端なくて、仕方なく口を開いた。


「んッ…………!!」

得意ではない、セロリの独特の匂いと味に口内が支配されている。

「美味しくないって言うなよ。残さず全部食べろよ。そんな、彼が正しいなんて馬鹿げてるよな?」

「ふっぐ……!!」

柔らかく笑う零くんの表情と、その脅す口調は全く一致していない。

うやむやにしようとした本題を強引に戻す手法。
ちっ。さすが公安め。
しかも、歌詞まで完璧に覚えている上にアレンジまでしてるじゃないか。
これは、確実に"知ってるぞ"アピールだ……。
と、いうことは。

真実は、たぶん1〜つ☆

未だ口内に居座るセロリをもぐもぐと喉奥へと、押し込んだ。

「零くん……起きてたの?」

「へっ?」

くっ……。キョトン顔で返された。

あっれれ〜?……違うのか。

「あ、えっ?もしかして……夜中、起こしちゃた……?」

「アハハ。どうした?夜はぐっすり眠れたよ。それよりもほら、早く食べよう。遅刻しちゃうぞ」

「う、……はい」

そうだった。零くんの場合……

真実は、いつも秘密!!
乾いた笑いの後で、軽く髪をかき上げお茶を濁した。

しれっと、緑茶を飲み始めた零くんに、それ以上は何も聞けない。
探ろうとすれば、返り討ちにあうから危険!!

でも……。

恐らく、多分、きっと!!

夜中にコソコソと動画を見ていたことを咎めているわけじゃないと思う。
それなら、もっとストレートに説教されるはずだ。

零くんも"トマトに嫌われている"を気に入ったってことだよね!

解りにくい"共有"が嬉しくて、思わず頬が緩むのだった。


END


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