名探偵コナン

□お膝の上で……。
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「待たせたかな?」

お気に入りのマグカップをトレイに乗せて安室さんがリビングに戻ってきた。
待っていた時間などほんの数分だ。
ぶんぶんと、慌てて首を横に振ると、安室さんはクスクスと笑い、目の前のテーブルにコトリ。と、マグカップを置いた。

「気分が落ち着きますよ」

云いながら、自然な動きで私の隣に腰を下ろした。

「夏帆ちゃん。さぁ、どうぞ?」

「安室さん、ありがとう。いただきます」

「ゆっくり、飲んでね」

湯気の立つカップを持ち、ふーふーと冷ましてから一口つける。

「美味しい……。梅昆布茶ですか?」

思うほど熱すぎず、温くもない。
程よい塩加減と梅の酸味。
素直な感想を伝えれば、安室さんは気を良くした様子で、梅昆布茶のもたらす効果を饒舌に語り出した。

飲みながら説明に耳を傾け頷く。

しかし、カップが空になった今でも安室さんの話は続行中だ。
梅昆布茶を経て現在は、"日本国憲法について"を聞かされている。
どうしてこうなったのか、よく覚えていない。

抑揚のない淡々とした口調が、高校の頃の古典の授業を彷彿とさせ、懐かしい記憶を呼び覚ました。
さながら、安室さんの講義を受けている気分だ。

それなのに、ツラツラと並べられる文言は耳を通過するだけで、ちっとも頭に入らない。
さっきまで、あんなに冴えていた脳内が、今は考えることすら億劫になっている。


安室さんの声音が心地よく、ぼんやりと聞き入ると徐々に瞼が重くなる。
欠伸を奥歯で噛みしめたその時、

「ん?ちゃんと聞いてます?」

安室さんと視線が交わった。
よく回らない思考でも、気まずさを感じる。
罪悪感に苛まれ、居住まいを正すと安室さんは可笑しそうに笑った。

「冗談です。聞かなくてもいいんですよ、あえて眠気を誘う為の話だったので、僕の思った通りの反応をしてくれますね。

だいぶ眠そうなので、そろそろ仕上げをしましょう」

ポンポンと膝を叩く仕草に、
仕上げ?と、考えている間もなく、身体を引き寄せられ頭は安室さんの膝の上に乗せられた。

「リラックスして、瞼を閉じて……」

安室さんの口調はとても優しい。
マインドコントロールされるかのように自ら視界を暗くした。
リラックスな体勢で、特別な存在を感じられることに満たされた。

梅昆布茶を出してくれた時から、既に安室さんによる入眠計画は、始まっていたのだ。
膝枕だなんて……。
本当に、彼は期待以上のものを与えてくれる。

力を抜くと忘れていた疲労が重くのし掛かる。
身体はもう限界で、瞼も重力には抗えない。
髪を撫でる安室さんの掌から伝わるぬくもりがとても気持ちよかった。


ゆらゆらと揺らぐ感覚は居心地が良くて、ずっとこうしていたい。
そんな、私の我儘を察したように安室さんが耳元で囁いた。

「このまま、眠ってしまっていいんですよ。おやすみなさい……」


微睡みの中で聞いた言葉に、安心して安室さんに身を委ねた。

今夜は、

お膝の上で甘えます。



END

18,07,26


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