バクマン。

□平丸和也の日常
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「いいか平丸くん!よく聞け!!」

「でたよ。よく聞け!聞いてたまるかっ」

「土日でネームを書くんだ!」

背後でネチネチと吉田氏の、ながーい話が始まった。
右の耳から左の耳へ、何か文字だけ通過する。
つまり、脳内に留まることなどない。
うるさいなぁ…
"やります"と言えば、吉田氏は静かになるのか?

「吉田氏、わかりました。僕、やります」

「ん!口先だけじゃ、ないな?じゃ、誓約書にサイン」
ピラっと用紙を差し出されて、ネーム書くことを約束させられた!!

「ぐぬぬぅ…。吉田氏め、休ませろー」

「わかった、わかった。平丸くん!ちゃんと出来たら、綺麗なお姉さんのいるお店に連れていこう」

「ラジャー!吉田氏」




――――――



と、昨日…言った。
つい、吉田氏の口車に乗ったのだが、
やる気ゼロ。
大体、土日は休むものだろう?
家でゴロゴロしてても何も浮かばない。
真面目に机に向かっても尚更、何も浮かばない。

そうだ!パンダの手帳を買いにいこーっ!!
パンダがいい、絶対パンダ。
ついでに、カフェで珈琲飲んで、あぁ…わくわくする!!
休日って素晴らしい!

吉田?
誰ソレ。

ネーム?
何ソレ。
そんなの、忘れたね。

そして―――

僕はお目当てのパンダの手帳を買った。
ほくほくしながら、
「次はお茶にしよーっ」
テンション高めに、オープンカフェのテラスに足を踏み入れた。

「ん?」

あの、ロン毛?
あの、後ろ姿は…。
まさか…よ、吉田氏?

"ロン毛を見たら、吉田と思え"

とは、よく言ったもの。古くからのことわざだ。
だが何故、こんな所に吉田氏がいるんだ?

しっ…しかも、女性とお茶を飲んでるっ!?

僕には、土日返上でネームを書き上げろと、命令しておきながら、自分はお茶か?しかも…
可愛い子と…。
あ、そういえば!!
ジャックの作家さんに女性がいると聞いたことがある。

なんだ、打ち合わせか。

「君は、原稿の仕上げも速いから、助かるよ。アハハ」

「そんなことないです。ウフフ」

「次のネームはこれで大丈夫だ。君は可愛いし才能もあるっ!僕に任せてくれないか?仕事と、恋のスケジュール」

「やだ、恥ずかしいです。吉田さんっ…」

クソっ。
なんて、会話してるんじゃないのか?
こっからは、遠くて何言ってんだかサッパリ聴こえない。
僕の想像でしかないが……。

「ちくしょー吉田め」

あまりにも、睨めつけながら見ていたせいか?
怨念のような視線を感じ取ったか、吉田氏の肩越しに見える可愛い女性と目が合った。
固まったようにも見えるが気のせいか?

それから、僕の視界に映る、邪魔なあのロン毛の後頭部がクルっと反転した。
「!ヤバいっ。見つかったか?逃げろ」

「ん?平丸くん!?」
と、吉田氏が言ったかは定かではないが…

どうして、こう…
「吉田」と云う奴は、ささやかな僕の休日まで邪魔するんだ!

きっと、前世からの因縁だ。
何かあったに違いない。

全力疾走しながら、ネームのアイディアがポンポン浮かんで、家に帰ったら直ぐにネームが出来てしまったではないか!!

恐るべし、ネガティブパワー。
きっとこれも、吉田の策略だ。
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