タイトルなんてない。

□2・ライバル関係継続中
1ページ/2ページ


『緋色の捜査官』

警視庁の屋上で、暫しの休憩中。
手に持った本のタイトルを見つめて、ため息を溢す。

3ヶ月前に、面白いから零くんも読んでみて。と、名前にプレゼントされたものだ。

確かに工藤先生の作品は、どれも面白いと知っている。

しかし、緋色の捜査官のモデルがあの赤井だと思うと、イライラしてくる。
気分転換に、なんて手にしてみたけど、一向に気は進まず、とりあえず文庫本はポケットにしまった。

「はぁ……」

吐いた息は、通り抜ける風に掻き消される。
日差しはあってもまだ肌寒かった。

今日は、朝からFBIと合同の捜査会議だった。
昼食休憩を挟んで、再開されるまであと30分か……。


軽めに昼食を摂るか。

あぁ、そういえば……。
ジャケットの内ポケットを探ったところで、屋上のドアが開いた。

柵に凭れかかったまま、視界に入れた……いや、勝手に映り込んできた正面のニット帽姿の男に、げんなりする。

「やぁ、降谷くん。君もここで休憩か?」

「えぇ。でも、直ぐに出ますから」

未だに、ジャケットの内側に手をかけたままの僕の姿を見てなのか、赤井もさりげなく自身のジャケットの内側に手を滑り込ませた。



「出来れば君と、穏便に話がしたいと思っている」

「もちろんです。ここは警視庁内ですよ?まさか、貴方と銃で撃ち合いをするとでも?」

「全くだ」

同調しても、赤井の視線は鋭いままだ。僕も赤井を見据えて離さない。


動いたのは、ほぼ同時。


互いにジャケットから、取り出したモノも同じものだ。


ほら、やっぱり……。お前もか、赤井。

「…………」

「…………」

どちらも無言ままに、でも視線を外したら負けだという気がしてならない。

春先だっていうのに、この場所だけ空気が凍てついたように妙に冷やかだった。




次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ