月刊少女野崎くん

□熱中症
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「夏帆、日曜日…家に来るか?」

「はい。行きます!」

突然の堀のお誘いに夏帆は1つ返事で、お家デートを喜び勇んだ。
堀に甘えて、のんびりまったり。などと思っていた夏帆は今、激しく後悔している。

「夏帆、数学ヤバイんだろ?野崎に聞いた」

「梅太郎め…余計なことを…」

もうすぐ試験がある。夏帆の成績を心配した堀は勉強のために呼び寄せたのだ。

「先輩、この部屋にサボローがいますよ」

「俺の部屋にサボローはいない。ほら、YDK」

「私はやっても出来ない子です」

のらりくらりと交わす夏帆に、やれば、出来る子!と、堀が一喝する。

一通りの解き方を懇切丁寧に教え込まれ、最後に渡された問題集を仕方なく解き始めた。

「先輩…出来ました」

「随分、時間が掛かったな。どれ、貸してみろ」

問題集をチェックする堀の目の前で、夏帆がテーブルに突っ伏した。

「先輩に騙された…」

ぼやいてみたが堀は華麗にスルーして、赤ペンを動かしている。なんだか相手にされないのも癪だ。

「先輩、頭をフル回転したら、疲れたよ!糖分補給したいです」

「もうちょっと待ってろ。採点したら、ケーキがあるから」

「わーい。ケーキ!」

単純に喜んだが、夏帆が欲しい糖分とは少し違う。意を決して、ムクっと身体を起こした。

「先輩?」

「なんだよ?」

堀がやっと手元の問題集から、夏帆へと視線を移した。

「熱中症って、ゆっくり言ってください」


夏帆の期待の眼差しを受け、途端に堀は怪訝な顔をする。

「はぁ?ねっ。ちゅー…しよう」

「はい!」

「はい。じゃねぇーよ」

ゆっくりとした口調で言い終えると、堀は、夏帆の考えそうなことだと理解した。
だがしかし、たまには期待に応えてやるのも悪くない。

「先輩のケチ、っ!」


グッと身を乗り出して、夏帆の顎に手を添えると、その煩い口を堀は素早く自分の唇で塞いだ。

「ん、んっ。」

あまりにも咄嗟の激しい口づけに、夏帆は堀を上目遣いに凝視した。

「自分から仕掛けたんだろう?文句はないはずだ」

唇を離され、夏帆は乱れた呼吸を整えると、ほんのり赤く頬を染めた

「そうだけど…」

言いよどむ夏帆の前に、堀が問題集を差し出した。それはすべて正解で、おまけに花マルまでついている。
夏帆は目を丸くした。

「やれば出来る子だったな?」

「スパルタ堀先生のおかげで…」

堀は苦笑いで、そっと夏帆の頭を撫でてやると器用な指先で、髮を纏めるように耳に掛けた。
自然な一連の動きに夏帆は身構えると、どちらからともなく唇を重ね合わせ、ご褒美とも言える、誠実なキスに酔いしれた。
 

END
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