月刊少女野崎くん

□Haunted house
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―…某遊園地


「夏帆、ちょっと休憩しないか?」


ちょうど、空いたベンチを指差すと、夏帆は、いいですよ〜と軽く頷いた

ベンチに座って、足を組むと隣に座った夏帆はパンフレットを見ながら、アトラクションもほぼ制覇しましたね?なんて笑顔で言ってくるから、思わず俺も自然に微笑んだ

晴れた空は高く、晩秋から初冬へ季節の移り変わりを感じながら

高原にある遊園地に乾いた風が心地よく色とりどりに染まる木葉を揺らしていた

まさにデート日和

アトラクションもほぼ制覇して、一番最後は観覧車に…

それは、暗黙の了解とも言えるのだが

でも、夏帆が…何度もスルーしてるアトラクションがあることに俺が気づかないとでも思っているのか…


「…なぁ、夏帆。テーマパークの三大アトラクションって、何か知ってるか?」


徐に口を開いて質問すれば、夏帆は読んでいたパンフレットから顔を上げ、目をパチクリさせていた


「えー…と、ジェットコースターと、観覧車?」

「そうそう、あと一つは?」

「あと一つは…」


ちゃんと考えてるのか?俺には、考えてる素振りにしか見えないが…

「コ、コーヒーカップ?」

「…んなワケねぇーだろッ」

夏帆のその大きな瞳が揺らぐ時は大抵、本心を隠す時
分かり易くて本当に有り難いよ

わざと外したのを確信した俺は、いつの間にか腕まで組んでる始末

目の前に構えている、恐怖の象徴みたいな建物を見つめながら

「あと一つは、お化け屋敷だ。知らなかったか?」

サラリと言った俺の視線を辿るように、夏帆もお化け屋敷の看板を見上げた

その表情はなんとも怪訝な顔つきだ


「…え?先輩?お化け屋敷に入りたいですか?意外と子供っぽいんですねぇ…」

クスクスっと笑いながら、夏帆は果敢にも、心理戦を挑んで来た

茶化せば俺が嫌がって、お化け屋敷には行かないとでも思ったか?


手に取るように分かってしまう夏帆の考え
おそらくそれは、夏帆が想っている以上に俺の方が、夏帆を好きだから…

言えば調子に乗るから、教えてやらないが

「せっかく来たんだし、三大アトラクションも制覇しないと帰れないよな?」

立ち上がってから、夏帆も立ち上がらせようと、左手を差し出した

その仕草に夏帆は驚いた様子で俺を見上げる

"まさか行くとは思いませんでした"って、顔をしてるから


クスっと今度は俺が笑う番


「夏帆、お化けが怖いのか?」


「そ、そんな子供じゃないですよっ」

膨らませた頬が、ほんのり赤く染まる

半ば、やけくそになって俺の手を掴んだ夏帆の右手が微かに震えていたことは、知らなかったことにしておこう



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