月刊少女野崎くん

□幼なじみ
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「梅ちゃんっ!!」


息を弾ませながら
勢いまかせにドアを開け、夏帆が俺の部屋に飛び込んで来た


「どうした?」


原稿にペンを入れる手を止めて
夏帆の方を振り返る


「ほ、堀先輩が…」


あー。

うっすら涙なんか浮かべちゃって…


「先輩が、どーした?」


「黙ってろ!!…って」


涙がうっすら、なんてもんじゃないな

すでにソレは溢れだし

うわ〜んと泣き出す姿は

幼い頃の夏帆のまま…

全く成長してないとは言わないが、どこか懐かしく、ちょっと愛らしく思えて仕方ない


大方、堀先輩に『好き!好き!』と、まとわりついて、怒鳴られたパターンだろう


「なんだ、いつものことじゃないか」


よしよし…と頭を撫でながら、慰めの言葉を探す


「まぁ、そう…気を落とすな、先輩だって本気で言った訳じゃないだろ?」


「今回は、流石に心が折れた…」


「もぅ!先輩なんか、好きになんない!やめるっ」



いや、待て

自暴自棄になって、その台詞…


もう何回、聞いただろうか

そう、宣言しても

また、夏帆は先輩の元へ行くんだろ?


いい加減、先輩も夏帆を好きだと、認めればいいのに…


そうして、泣かされて俺の所にやって来るんだ


大丈夫だから、頑張れよ…


いつも、心の中で思うだけ

夏帆を毎回、慰めるのは俺の役目


彼氏になる気など、更々ないが

なんとなく、他の誰かに夏帆を染められるのは、気にかかる



「あ〜っ、ほら。夏帆、涙か鼻水か、わかんないぞ…」


とりあえず、ティッシュを差し出した


「ありが…と、梅ちゃん」

「ん。」

一頻り泣いて、スッキリしたのか

「少し元気がでたよ、不思議だね…梅ちゃんと居ると落ち着く」


「何もしてないけどな」

「でも、いいの!」


涙はピタリと止まって

夏帆がふわりっと笑った


勝手に人を巻き込んで

マイペースな夏帆に振り回されて

散々、手を焼いても結局…

泣いた夏帆が笑うと

ホッとする


願わくは…

恋のようなトキメキではなく

愛のような安定でもない

好きとか嫌いの感情とも違う


みなにでくのぼーと呼ばれ
褒められもせず
苦にもされず
そういうものに
わたしはなりたい



ん…しまった
これじゃ、賢治さんの有名なフレーズのパクリだ

皆さん、ボツの方向でお願いします



気を取り直して



俺は…

夏帆の、心の片隅にいつもいる


『幼なじみ』という"特別"でいたい




先輩の…夏帆に対する気持ちを知っていたとしても


だから、もう少し

この、奇妙でループな関係を楽しみたい

なんて、思う俺は…意地悪か?


END
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