月刊少女野崎くん

□秘密
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「…鹿島くん?どういうこと?」


「ごめん、夏帆ちゃん…つい」                                                              

整った涼しげな顔が、ちょっと困ったように微笑んでも、またそれが絵になって

学園の王子様はこんな状況でも、ご健在だ


もし、私が…

鹿島くんのファンで…

取り巻きの一人なら

恋と錯覚するのかも知れない

男子力の高い彼女に


しかし、

私にとっての王子様は

堀ちゃん先輩だけ!


どんなに流し目になって

壁ドン的なポーズ取られても

狭くて密着していてもだよ!



「鹿島く…フガッ!」

開きかけたその口は

咄嗟に鹿島くんの左手で塞がれる


「シッー…」


そう言って、右手の人差し指を自分の唇の前に当てた

その行為が…誤解を与えてるって

鹿島くん…ちゃんと分かってる?

薄暗い空間で、鼻先が触れそうなほどの距離

口を塞がれたまま、どうにか意志を伝えようと

精一杯、目で訴えかけたその時

ド…

何か地響きのような音がする

耳を澄ませば

ドドド…

それは足音にも聞こえなくない

「……まぁ!」

ドキリと心臓が飛び出しそうなくらい驚いた

聞き慣れた声はだんだんと大きくなり

「かぁ〜しぃーまぁ!どこ行きやがった!!」

今度は、はっきりと鹿島くんを探す先輩の怒鳴り声を耳にする

続くように「鹿島くーん!」と黄色い
歓声が後を追う

先陣を切っているのは、先輩だ
いつもの光景を安易に想像すれば
どうしてあの時に予想出来なかったのかと後悔した

ぼうっとして廊下を歩いていた私がいけなかったのだ

鹿島くんと廊下で出会い頭にぶつかった

「夏帆ちゃん大丈夫!?怪我してないっ?」

弾みで転んだ私を咄嗟の判断で抱き抱えると

「保健室に行こう!」

そのまま私は鹿島くんにダッシュで奪取されてしまった

大丈夫だから!と、断りを入れる隙すら与えてくれず

勿論、保健室に行くのだとばかり思っていた

しかし、鹿島くんの思考など全く読めなかった

それよりも速く鹿島くんは、空き教室を見つけると、ポツンと寂しげに置かれている掃除道具入れのロッカーに、私ごと慣れたように身体を滑り込ませたのだ

バタバタと沢山の足音が廊下に響く

その距離はすぐ近くまで迫っていた

ここで、先輩に見つかったら…

私も鹿島くんも各々違う意味でアウトだ

巻き添えを喰った…
それだけなのに

ある意味、秘密を共有したスリリングな一瞬に

チクリと胸が痛んだのは
先輩に後ろめたさを感じているから

狭いその中で、足音が遠退いていくのを

私はじっと息を殺して、身を硬くするばかりだった


END

14*12*21
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