月刊少女野崎くん

□後の…十三夜(typeA)
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「あれ、高野っ?今、帰りか?」


聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、私は足を止めると、声のする方へ振り向いた


「堀先輩、部活は終わったんですか?」


「まぁな、って言っても今日はミーティングだけだったし」

話しながらも歩を進ませて、先輩は私と並んだ


放課後、教室で友達とお喋りしていたら、すっかり話し込んでしまって…
既に辺りは薄暗くなっていた

下校時間のチャイムに、急いで帰りの支度をすると校舎から出た所で、先輩に会った


「高野、一緒に帰ろーぜ?」


先輩の笑顔がちょっと爽やかで…

なんだか、急に胸がドキドキした


「え、…いいんですか?」


「良いも悪いも、同じ駅までなんだし」


「そうですよね…」


こうして先輩と帰るのは初めてだ

まだ、知り合って日も浅いから

誘ってもらえたことが嬉しくて


並んで歩くと恥ずかしいような…

くすぐったい気持ちになる




何か話さなくちゃ!と考えても、何を話したらいいのか、上手く頭が回らず全く分からなくなった…


ポッ…と、顔を中心に熱が上がる気がして

受ける風さえ心地よくて、無言を貫いてそのまま俯いた


「高野…」


「は、はい?」

不意に名前を呼ばれ顔をあげると、先輩は高い夜空を見上げていた


視界には、その端整な横顔が月明かりに照らされて…

冷たく乾いた風が、撫でるように先輩の髪を揺らした

…大人っぽい

昼間とは違う先輩の雰囲気に

思わず胸が高鳴った



文化部でありながら…どこか体育会系的な印象の先輩の姿はなく

なんだか…私の知らない男の人に見えてしまう

私は暫し先輩に見惚れていた

「すっげぇ…な?」

「へっ?」


「へっ?…て、高野は一体、何を見てたんだ?月だよ!月っ」

さっきの先輩は、別人だったのかも…

やっぱり、口調は相変わらずのまま…
先輩は先輩だった


まさか、先輩を見てました…なんて言えるはずもなく、慌てて言われた通りに夜空を見上げると…

「うわぁ。すごい…」

…思わず感嘆の言葉が漏れた


夕闇に染まり
ぼんやりと滲んだ光を放つ、まあるいお月様が…

空の上でその存在を示している


「今日って…満月だったんですね…」




先輩が近すぎて、煩い心臓の音がバレなきゃいいな…と思いながら

もう一度、視線を空へと戻した



「…なぁ?どの辺りが、ウサギがお餅ついてんだ?」


「え?…と、…アレ?じゃないですか?」

指差しで、なんとなく示してみると

「へぇ…」

興味があるのか、ないのか…

気のない返事と突拍子な質問が可笑しくて…

思わず笑ってしまった


「やっと、笑ったか?いつもの高野だな。ん、じゃー帰るか」

「はい!」

"私らしさ"を取り戻し、揚々と歩きだそうとしたその時、ツンと石に躓いた

転びはしなかったものの、よろけた姿は誤魔化せなくて…

早速、醜態を晒してしまった

そんな私を見て先輩は

「危なっかしぃーな」

オーバーな溜め息を吐いてみせる


「ほら…」

先輩から自然に差し出された左手に

そろそろと私は右手を絡ませた

少し冷えた指先が、先輩の温もりで包まれて

ぴったり離れないように、繋いだ手をぎゅっと握っても、先輩は黙ったまま歩き出した



「先輩、ありがとう…また、一緒にお月見しながら帰りましょうね?」

「ん。」

短い返事だったけど、先輩が照れてるような気がして

先輩も私と同じ気持ちだったらいいのにな…


淡い期待は、そっと胸の奥に仕舞うことにした



夜空を見上げる度に私は、今日のことを思い出すだろう…




澄みきった夜空を優しく照らし

静かに輝いているお月様

まるで、私達を見守っているようだった



後日…それが、ミラクルムーンと呼ばれる特別な日だと知り、驚いたのだった




END
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