月刊少女野崎くん

□存在確認
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空は青くて

目にも青葉

そよ風なんかも吹いちゃって


新緑の季節っていえば、そうなんだけど…

いかにも、デート日和だと俺は思う


なのに…なんだかなぁ…


さっきから俺の彼女は、熱心に雑誌を読み更けっている


「あのさ…」


「……うん?」


「ソレ、楽しいのか?」

「…うー…ん」


彼氏の存在すら忘れかけたような、生返事の彼女





今、夏帆の感心は新刊のティーンズ雑誌であって、どうやら俺は、ソレに負けたらしい。



表紙の写真のイケメンは、何処か鹿島に少し似ていて、勝ち誇らんばかりの笑顔だった。


待つこと10分


正直、俺は暇なんだけど?

分かってんのかな…と、軽く夏帆を盗み見すれば



「ななな、なんだって?!」



夏帆は、急に大声を出しスクッと立ち上がった


毎度のことだが…
俺は、この突拍子過ぎる態度に驚かされる(笑)


「どうした、急に?」

内心の可笑しさを隠しつつ低めのトーンで問えば




「先輩っ!ちょっとここ!!…この占いの所、読んでみて下さい!」


やや、興奮気味に信じられないといった表情で夏帆は俺に雑誌を渡した


「いや、読むの面倒だから…夏帆が読んで聞かせてくれよ?」


かるーく放置されてた仕返しだ、とばかりに片眉あげて、夏帆にこの忌々しいライバル雑誌を戻すと


「え、……?」


シュルシュルと頭の血の気が下がったみたいに


ストンと俺のとなりに座り直し、夏帆は何かを察したみたいに顔を青くさせて固まった。


あ、意識が俺の方に傾いた?
でも、それだけでは満足いかない



「せ、先輩?何か…怒った?」


「どうして、そう思う?怒ってなんかねぇーだろ」


そりゃ、ほったらかしにして…自分の世界に浸ってました…っていう、心当たりは間違ってないだろうけどな。


だけど、別に怒ってる訳じゃない、ただ…


夏帆が夢中な雑誌に嫉妬しただけ(笑)



ライバルが雑誌だなんて冗談じゃない


「なぁ、夏帆?」


夏帆の耳元で名前を呼んだ


「な、なんですか?」
  


「…好きだ(カプッ」


ふいに、近づく夏帆の耳朶を甘噛みして、それから身体を離せば




「う?きゃあァ゛」


夏帆は顔を、今度は真っ赤にして咄嗟に立ち上がる。



その拍子に夏帆の膝に置かれていた本はスルリと地面に落ちていった。



その耳に、俺の声は届いたか?


「何するの!?」
って言いたげな口元にも…

顎を掬って深く口づけを落とせば


驚き、くるりとまぁーるい大きな瞳に、ちゃんと俺は映ったか?


「まぁ、存在確認だ」


随分と、子供染みた真似だよな?
なんて、自分でも分かってる。


「は…ぁぁ?」

呆気にとられた夏帆の顔

愛しくって仕方ない

忘れるなよ(笑)

いつだって夏帆、だけに


俺はここだと、示すんだ


ひゅうぅ…とひとつ大きな風が吹いて


俺の足元には、忘れられた、雑誌の表紙を飾るイケメンの笑顔




ソレはすぐ、風でパラパラとページが捲れて見えなくなった。


あ、もしかして?
夏帆の心を奪い還せた、俺の勝ち?


たまには、

存在誇示も悪くないだろ?


END
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