月刊少女野崎くん

□甘い理由
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「野崎くん、喉、渇いたんだけど…"何か"ある?」


「ん?あぁ、冷蔵庫に"何か"あるだろ?」


「はーい。いただきます」


勝手知ったる野崎家の冷蔵庫


扉を開くこの瞬間がちょっと楽しみでもあり不安でもある



"何か"とは、お互い暗黙の了解だと思っている



冷蔵庫で冷やされたイチゴミルクの紙パックを取り出して、思わず頬が緩んでしまう。



野崎くんがイチゴミルクを飲むことはない


でも…必ずストックされていることに、私は野崎くんに愛されているのだと、勝手ながら毎回思うのだ




「イチゴミルク、本当に好きだよなぁ―…佐倉は…」




キッチンに入って来た野崎くんの語り口調は、どこか懐かしさを帯びていた


ひとことで言えば

思い出の味だから…


別にイチゴミルクが特別好きな訳じゃない

チュルルとストローを啜ると、口の中に広がる甘さと酸味…ほんのりとしたイチゴの香りが

あの頃を呼び戻すから…

野崎くんと付き合い始めた、あの日…
飲んでいた

"イチゴミルク"を―…



キュンと胸が締め付けられるような、感覚を…
今でもずっと覚えてる







「佐倉、ひと口頂戴」


「どうぞ?」


スッと手元を離れていったイチゴミルクの紙パック…



ストローは野崎くんの口元へと運ばれ

ゴクッとそれが喉元を通過していく様を私は、信じられない気持ちで、ただポカンと眺めているだけだった


「……甘いな、よく飲めるな?佐倉」


眉間に皺を寄せながら、なんとも野崎くんらしい感想を耳にして

クスっと笑みが零れる


「だって、そのイチゴミルク…特別、甘いんだよ?」


「はぁ……俺が買ってきたの、こんなに甘かったのか…」

腕組みをしながら野崎くんは、「次は違うイチゴミルクを買っておく」と困ったように笑ったけど…




本当の特別に甘い理由は

あの頃の思い出と野崎くんの愛が加えられているから…なんだよ?



END
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