名探偵コナン

□full moon(十五夜)S
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薄い夕闇に染まり
キラキラと澄んだ光を放つ、まあるいお月様が、空の上でその存在を示している。

窓の外の景色を、視界いっぱいに捉えると思わず客室からベランダに出て空を眺めた。

「綺麗……」

感嘆の言葉を溢して、暫しお月様観賞に夢中になっていると、パタンとドアの閉まる音がした。赤井さんがお風呂から帰ってきたようだ。

「夏帆?そんな所で何してるんだ?」

「赤井さん!おかえりなさーい」

振り返って出迎えると、そのまま赤井さんはベランダにやって来る。

いつものタイトな黒の洋装とは違い、純和風な旅館の浴衣を身に纏った姿は
格好いい……。

無言で頭の天辺から足の先までを、じっくり眺めてしまった。

「………………」

「どうした?」

「えっ!!あ、あの……今日は十五夜なんですよ?月が綺麗だなぁ〜と思って見てたんです」

赤井さんにも見蕩れてました。とは、言えない。
得意気に赤井さんへ十五夜の説明をしたけど、実は先程、旅館の土産品店のおばちゃんに教えてもらった受け売りだ。

「なるほど、仲秋の名月だったか」

夜空を見上げた赤井さんのを傍らでこっそり横顔を覗きみた。
端正な顔立ちは何度見ても男前だ。
正直、赤井さんの顔がすき……。
顔だけか?と、赤井さんに文句を言われようとも!


あなたの顔がスキ……

って、どれだけ赤井さんが好きかを再確認してる場合じゃなかった。

慌てて夜空を見上げても、頭の片隅で想うのは赤井さんの事ばかり。

ぼんやりと、旅行前に嵐のような喧嘩をしたことを思い出す。
仲直り……なのか、報復なのかちょっとよくわからない溺愛をひたすら受けたあと、結局赤井さんの意向を押し通されたのだけれど……。

今、こうして一緒に静かに輝く月を眺めていることが出来て本当に良かったと思う。
同じ時間を過ごしながら、お月様を見つめているとなんだか穏やかな気持ちになる。


「あの、お月様を見てたら、お饅頭が食べたくなりません?」

「ん?団子じゃないのか?」

「ここの、温泉饅頭、凄く美味しかったですよ?さっき、お土産屋さんで試食したんです!お土産に買っていこうと思って」

試食中、あまりにも美味しくて感動してたら、通りがかった金髪イケメンのお兄さんに笑われた気がしたけど。

「ほぉ〜。美味いのか?
(いつの間に試食してきたんだ…)
じゃあ、俺も…土産に買って帰るとするか」

「イチオシ!らしいです…ふぇ、く、しょ……ッん、」

他愛のない会話に夢中で、すっかり長居しすぎたみたいだ。
せっかく温泉で温まった身体は冷えて、ぶるりと小さく震えた。

初秋といえど、ここは高原にある温泉地。昼間の暑さを忘れるほど、夜は気温がぐっと下がる。

「すっかり冷えたみたいだな」

そう言って、赤井さんは自分の着ていた浴衣の上着を、そっと肩に掛けてくれた。

ふわっと肩先から…温もりを感じる。
ちょっと大きめの上着にすっぽりと覆われた。

袖を通すと微かに鼻を掠めた、煙草の香り。

赤井さんの匂いがする…。

なんだか、抱きしめられているような気分になって、じんわりと沁みるような、彼の優しさを全身で感じて胸がいっぱいだった。


「ふふ、ありがとうございます!」


気づくと、私は自分から赤井さんの胸に飛び込んで、ギュッと広い背中に腕を回して抱きついた。

「っ…」

驚いたあとで、クっと喉の奥で笑う声がする。

そろりと、顔を上あげるとぱちッとグリーンの瞳と視線が交わった。
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