名探偵コナン
□full moon(十五夜)R
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「降…れっ、零さん?見て下さい!お月様が綺麗ですよ?」
夜風にあたりに客室のベランダに出てみると、空に浮かぶ満月がとても綺麗で降谷さんをぎこちなく名前で呼んでみた。
「夏帆…無理して名前で呼ばなくてもいいのに……」
室内からベランダに出て来た降谷さんは、気遣うように私の隣に寄り添ってくれる。
「ううん…決めたの!この旅行を機に、降谷さんから…零さんって呼びます!!」
「へぇ〜、夏帆にしちゃ進歩だな。どうせなら可愛く、"零くん"でもいいぞ?」
「零くん!?」
「はい?」
つられて呼んでしまったら、降谷さんが楽しそうに、ニヤリと笑う。
まんまと乗せられたことに今、気が付いた。
「は…恥ずかしい」
「ふっ。夏帆が照れてどーすんの?」
「だって!降、れい………………くんが………いきなりハードル上げるからっ」
「だから、無理しなくていいよ。好きなように呼んだら?努力は認めるから」
クスっと笑った降谷さんの口元は、綺麗なほどに弧を描く。
その言葉とは裏腹に…
この先、零くんと呼ばないといけない?そんな…予感がする。
絶対的な、鱗片を感じ取ったことも知らずに、降谷さんは、黙ったまま静かに空を見上げていた。
その、……横顔が。
いつもと違って見えるのはどうしてかな?
そっと盗み見すれば昼間とは違う、精悍な顔立ちに、思わず胸がドキリとする。
月明かりの中、涼しい秋風に吹かれて揺れたサラサラの髪。
旅館の浴衣をちょっと着崩して、チラリと見せた鎖骨がセクシーで……
温泉旅館で過ごす2人だけの時間。
きっと、全てが魅了しているのかな?
まだまだ知らない降谷さんの一面を、もっと深く知りたいと欲張りになる。
ほんのりと、顔が熱を帯びるのを感じた。
慌て俯くと視線の先には昼間に訪れたテーマパークの観覧車が眩しくライトアップされているのが小さく映る。
「どうした?月、見ないのか?」
語りかける口調は、とても優しくて暖かい。
「そ、そうでした」
ふふっと、誤魔化すように笑って、今度は一緒に夜空に輝くお月様をゆっくりと見上げた。