名探偵コナン

□売り言葉に買い言葉
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「赤井さん……」

「ん?」

「夏期休暇……取れましたよ?」

「本当か!」


夕食を取りながら報告すると、
赤井の表情がいつもより緩むのを見て、夏帆も嬉しそうに頷いた。

初めて二人で旅行に行くのだ。
休暇申請が認められ、予定通り旅行の準備が進められる。
と、夏帆は思っていた。

しかし、余念なく既に赤井が動いていたことを知らなかった。

「行き先はもう、決まっている」
「え?決めてあるんですか……」

思わず夏帆は、ポカンと口を空けたまま赤井を見つめてしまった。

(赤井さんは、私が思っている以上に旅行を楽しみにしているのかも……。)

滞在先も予約済と聞かされ、その手際の良さに更に驚いた。
一緒に暮らしてはいるが、お互いに仕事で、生活がすれ違いになることもある。赤井の場合、帰宅すら出来ない日 だってある。
今回は3日間の休暇だが、それでも二人の時間を持てたのは特別なことだ。

夕食を終え、軽くお酒を飲みながらほろ酔いで、旅先で何をしようか思いを馳せる。

幸せを感じる時間。

でも、今回ばかりはそう長くは続かなかった。

それは、夏帆が旅費のことを赤井に訊いてから、段々と険悪なムードとなっていった。

「何度も言わせないでくれ」

「そういう訳にはいきません!」

「俺がいいと言ってるんだ」

赤井の口調は、宥めるように聞こえるが、徐々に目に怒りを滲ませ始めている。

遠くからゴロゴロと雷鳴の轟が小さく聞こえた。

少しだけ開けていた窓からは、冷気を含んだ風がカーテンを揺らし始める。
もうすぐ、夕立がくるのだろう。

まるで、今の二人の状況を体現したようだ。

それでも、夏帆は、ここで折れることはしたくなかった。

行き先は、秘密
旅費も、要らない

という赤井の提案。

行き先を教えてもらえないのは、恐らくサプライズなのだろう。
赤井の気持ちを推し量ることは、できる。

それにしても、旅費は別だ。
赤井に全て甘える訳にはいかない。
夏帆だって社会人の端くれ。赤井の収入に比べたら、鼻くそ程度の収入であっても、旅費を捻出するくらいはちゃんとある。

赤井は気にも止めないだろうが、せっかくの旅行に夏帆も何か役に立ちたかったのだ。
なのに、この男ときたら……。
思いの外、頑固だ。


素直に受け入れてしまえば、円満になると分かっていても、簡単には首を縦には振れなかった。
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