名探偵コナン

□とある降谷と同棲生活
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「ん?」

「へ?」

端正な顔がニヤリと笑ったかと思うと、あっという間に唇が重なって触れるだけの丁寧な優しいキスに固まった。

「な、ななな何するんですか!!」

「なに?って、もっとキスをして欲しそうな顔をしてるくせに……?」

「してないです!!」

「じゃあ、して欲しくないのか」

「え、」

「答えろ。夏帆は、あんなちょろいキスで満足したのか?」

ジリジリと距離を詰められて、耳元で囁かれた甘くて意地悪な誘いに惑わされる。

離れた唇が名残惜しかったのも、もっと触れて欲しいことも、すべて見透かされているようだった。

「ずるいです。」

恐る恐る降谷さんの胸に、顔を埋めると黙って目を閉じた。
これ以上のアピールは、私にはハードルが高すぎる。

「分かればいい」

キスのおねだりに気を良くした降谷さんがクスッと笑うと、吐息が耳を擽った。
顎を掬われてもう一度、唇を重ねて角度を変えて、更に深く深くと求められる。

降谷さんだから…

降谷さんじゃなきゃ…私は満たされない。



「…きゅうぅぅぅ…」


「!!!!…。」



「くっ…あははははっ!」


どうして…こう。
タイミングが悪いのだろう?
甘いムードは、私のお腹が鳴って、終了した。
もう…色々と恥ずかしすぎて、死ねる。

「キスじゃ、夏帆の空腹は満たせないか。」

「大丈夫です。満たしてもらいましたから……」

「続きは後にして……そろそろ、夕食にするか」

お腹を抱え一頻り大笑いした降谷さんが立ちあがる。

手伝ってくれ。と、話しながら部屋のドアを開けた降谷さんの背中に思わず、声を掛けた。


「降谷さん、あのね…今日、降谷さんが美味しいって言ってた、和菓子屋さんの大福を買ってきたんです……。一緒に食べたくて……」

「そうか。それは楽しみだ」

振り返った、降谷さんの瞳が僅かに揺れたような気がした。

でも、にっこりと笑い軽く頭を撫でられると、今度こそ胃ではなく胸がキュンとなる。

降谷さんが、知らなくてもいい。
今日が記念日だなんて、口にはしない。

同棲して一年。
長いようで、短くて、何気ない毎日が、私にはかけがえのないものだったって、気づかせてくれたから。

降谷さんに喜んで欲しくて、笑った顔が見たくて。
ただ、感謝の気持ちが伝えたかった。
途中から降りだした雨の中を歩こうとも、苦にはならなかった。

それが、独り善がりであったとしても…。




しかし…


彼は、やはり出来た人だった。


夕食後、―――


降谷さんが、私に差し出したのは夢の国のチケットだった。

「行きたいって言ってただろ?やっと、明日休みが取れたんだ」

「今月ずっと忙しそうだったのは、お休みを取る為だったんですか?」

「仕事を詰めるくらいなんてことはないが……でもそのせいで、今日は遠慮したんだろ?わざわざ大福を買ってきたのは、特別な日だから……だな?」

「降谷さん、知ってたんですね」
「忘れるわけないだろ」

覚えていてくれたことが、嬉しくて泣きそうになって、用意していた言葉が、一瞬にして真っ白になりなんて言ったらいいのか胸が詰まった。

「しかし、傘も持たずに2駅先の大福を買いに行って、雨に濡れるなんて馬鹿だ。もっと、自分を大切にしろッ」

ついでに説教も、もらいました…。


「はい。以後、気をつけます…。」

じゃなくて!
降谷さん…。
いつも一枚上手すぎる。
感謝よりも、謝罪が先になりました。

END


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