名探偵コナン
□とある降谷と同棲生活
1ページ/3ページ
「おかえり夏帆、ほら?」
「…た、ただいま。ありがとうございます。」
玄関先で、用意されていたタオルを受け取り、なんて出来た人なんだ!と、じーんと感動する私とは反対に……
出迎えて、タオルを渡してくれた降谷さんの表情は、…険しい。
「夏帆、朝、俺には傘を持って行けって言わなかったか?」
「言いました。夜には雨の予報だったので」
「なんで、自分は傘を持たずに仕事に行くんだ?」
「早く、帰るつもりでした」
びしょ濡れとまではいかないが、冷雨に濡れた髪を拭きながら、ちょっと怒ってる降谷さんの背中を目で追いかけ、言い訳しながら部屋に入った。
リビングにまで届く、ビーフシチューの香りが、空腹のお腹を刺激する。
今朝、自分で用意していったものなのだけど…。
「降谷さん、温めてくれたんですね?」
「ん?早く帰ってきたからな。序でにサラダとスープも作っておいた」
「ありがとうございます。お腹へった〜」
キッチンへ、降谷さんの後に続いて入ろうとすると、振り返った降谷さんの顔と口調は呆れ気味だった。
「夏帆は先ず、お風呂だろ?冷えた身体を暖めないと!」
「え、と。はい」
お風呂まで沸かしてある?
なんて、至れり尽くせり……。
私の傘が置いてあることに気づいてから、ここまで機転を利かせる降谷さんは、
「なんだか…お母さん」
「苦労しただろうな、夏帆のお母さん。世話がかかる娘で」
「う…。言い返せません。お風呂に行ってきます」
「ん。いい子だ」
お玉を片手に風呂へ行けと、促す降谷さんの姿は妙に似合う。
なんでだろ?
完全に子供扱いされてくやしいけど…荷物を置いてから渋々、バスルームに向かった。
―――――――
「アナタは、もう…忘れたかしら?〜♪……………………ただ、アナタの優しさが怖かった。」
湯船に浸かって、充分とリラックスしながら、思わず口ずさんだのは、失恋ソングだ。
あれ…無意識に優しさが怖いのか?
冷雨に濡れて、芯まで冷えたから?
にしても…曲のチョイスが単純すぎると自覚する。
確り身体を暖めてから湯船を出ると、
逆上せ気味の頭をクールダウンさせるため、寝室の鏡の前で、本来なら髪に当てるべきドライヤーの涼風を顔に向けて目を閉じた。
「はぁ。…涼しい」
「お前は、ドライヤーの使い方を知らないのか?」
背後頭上から届く声は、ドライヤーの音にも負けずよく通る聞き慣れた声だった