名探偵コナン

□秘密
1ページ/1ページ



「…赤井捜査官?どういうことですか?」

「すまない。つい、ん?君は……確か、降谷くんの……?」
 
「な、何を言ってるんですか…………違いますよ」      

なぜそれを知っているのだろうか。いきなりの口撃に、冷や汗をかきながら笑顔を取り繕う。


「隠さなくていい。職場の人間関係など見ていれば案外、容易い。恋人かどうかもだ。君と降谷くんの関係を口外しないと約束する代わりに、今回の事は許して欲しい」

「っ、」

整った涼しげな顔が、ちょっと困ったように微笑んでも騙されない!

秘密裏での降谷さんとの交際を、あっさりと見抜かれていたことに言葉を失った。
さすがにFBIきっての切れ者と言われるだけのことはある。その洞察力はご健在らしい。

警視庁内に多数存在する赤井捜査官の隠れファンなら、この状況は恋に落ちるに十分だろうが、私にとっては拷問に近い。

どんなに優秀なFBIの捜査官に、壁ドン的なポーズ取られても、狭くて密着していても、ただの苦痛だ。

「赤井捜査…フガッ!」

開きかけたその口を、咄嗟に赤井さんの左手で塞がれた。

「シッー…頼む。黙ってくれ、事情は後から説明する」

そう言って、右手の人差し指を自分の唇の前に当てた。
天然の人たらしか!
初対面ではないが、仕事以外で話すことはなかったせいか、見た目通りのお堅い人間かと正直思っていた。

なるほど、隠れファンが多いのも頷ける。無意識無自覚なその仕草は、誤解を与えるって……。
この人は、ちゃんと分かってるのだろうか?

薄暗い空間で、鼻先が触れそうなほどの距離。
口を塞がれたまま、どうにか意志を伝えようと、精一杯、目で訴えかけたその時

ド…

何か地響きのような音がする。

耳を澄ませば

ドドド…

それは足音にも聞こえなくない。

「……いぃ!」

ドキリと心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
聞き慣れた声はだんだんと大きくなり

「あぁ〜かぁーいぃ!どこ行きやがった!!」

今度は、はっきりと降谷さんの怒鳴り声を耳にする。

続くように
「シュウ!どこなの?」
「赤井しゃ〜ん」

赤井さんを探すFBIの面々の声が、後を追う。

先陣を切っているのは、降谷さんだ。

合同捜査が始まって以降、赤井捜査官の奔放さに、腹を立てた降谷さんのご乱心は今回が初めてではない。

何度か目撃したことがあるこの光景は、安易に想像がついた。
ただ、どうしてあの時に予想出来なかったのかと、後悔している。

それは、ほんの数分前の出来事だ。

ボケっとして、呑気に廊下を歩いていた私がいけなかった。
フロアの廊下で、私は赤井さんと出会い頭にぶつかった。

「君、怪我はないか!?」

弾みで転んだ私を、咄嗟の判断で抱き抱えると

「過失は半々だか、君を医務室に連れて行こう」

そのまま私は、赤井さんにダッシュで奪取されてしまった。

大丈夫です!と、断りを入れる隙すら与えてくれず、

勿論、医務室に行くのだとばかり思っていた。

しかし、赤井さんの思考など全く読めなかった。

それよりも速く赤井さんは、空き部屋を見つけると、ポツンと寂しげに置かれている掃除道具入れのロッカーに、私ごと慣れたように身体を滑り込ませたのだ。

バタバタと沢山の足音が廊下に響く
その距離はすぐ近くまで迫っていた。

ここで、降谷さんに見つかったら…

私も、赤井捜査官も各々違う意味でアウトだ。

巻き添えを喰った、それだけなのに。

ある意味、秘密を共有してしまった
スリリングな出来事に背筋が凍りつく。
チクリと胸が痛んだのは、降谷さんに後ろめたさを感じているからだ。

狭いその中で、足音が遠退いていくのを、私はじっと息を殺して、身を硬くするばかりだった。


END


次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ