名探偵コナン
□秘密
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「…赤井捜査官?どういうことですか?」
「すまない。つい、ん?君は……確か、降谷くんの……?」
「な、何を言ってるんですか…………違いますよ」
なぜそれを知っているのだろうか。いきなりの口撃に、冷や汗をかきながら笑顔を取り繕う。
「隠さなくていい。職場の人間関係など見ていれば案外、容易い。恋人かどうかもだ。君と降谷くんの関係を口外しないと約束する代わりに、今回の事は許して欲しい」
「っ、」
整った涼しげな顔が、ちょっと困ったように微笑んでも騙されない!
秘密裏での降谷さんとの交際を、あっさりと見抜かれていたことに言葉を失った。
さすがにFBIきっての切れ者と言われるだけのことはある。その洞察力はご健在らしい。
警視庁内に多数存在する赤井捜査官の隠れファンなら、この状況は恋に落ちるに十分だろうが、私にとっては拷問に近い。
どんなに優秀なFBIの捜査官に、壁ドン的なポーズ取られても、狭くて密着していても、ただの苦痛だ。
「赤井捜査…フガッ!」
開きかけたその口を、咄嗟に赤井さんの左手で塞がれた。
「シッー…頼む。黙ってくれ、事情は後から説明する」
そう言って、右手の人差し指を自分の唇の前に当てた。
天然の人たらしか!
初対面ではないが、仕事以外で話すことはなかったせいか、見た目通りのお堅い人間かと正直思っていた。
なるほど、隠れファンが多いのも頷ける。無意識無自覚なその仕草は、誤解を与えるって……。
この人は、ちゃんと分かってるのだろうか?
薄暗い空間で、鼻先が触れそうなほどの距離。
口を塞がれたまま、どうにか意志を伝えようと、精一杯、目で訴えかけたその時
ド…
何か地響きのような音がする。
耳を澄ませば
ドドド…
それは足音にも聞こえなくない。
「……いぃ!」
ドキリと心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
聞き慣れた声はだんだんと大きくなり
「あぁ〜かぁーいぃ!どこ行きやがった!!」
今度は、はっきりと降谷さんの怒鳴り声を耳にする。
続くように
「シュウ!どこなの?」
「赤井しゃ〜ん」
赤井さんを探すFBIの面々の声が、後を追う。
先陣を切っているのは、降谷さんだ。
合同捜査が始まって以降、赤井捜査官の奔放さに、腹を立てた降谷さんのご乱心は今回が初めてではない。
何度か目撃したことがあるこの光景は、安易に想像がついた。
ただ、どうしてあの時に予想出来なかったのかと、後悔している。
それは、ほんの数分前の出来事だ。
ボケっとして、呑気に廊下を歩いていた私がいけなかった。
フロアの廊下で、私は赤井さんと出会い頭にぶつかった。
「君、怪我はないか!?」
弾みで転んだ私を、咄嗟の判断で抱き抱えると
「過失は半々だか、君を医務室に連れて行こう」
そのまま私は、赤井さんにダッシュで奪取されてしまった。
大丈夫です!と、断りを入れる隙すら与えてくれず、
勿論、医務室に行くのだとばかり思っていた。
しかし、赤井さんの思考など全く読めなかった。
それよりも速く赤井さんは、空き部屋を見つけると、ポツンと寂しげに置かれている掃除道具入れのロッカーに、私ごと慣れたように身体を滑り込ませたのだ。
バタバタと沢山の足音が廊下に響く
その距離はすぐ近くまで迫っていた。
ここで、降谷さんに見つかったら…
私も、赤井捜査官も各々違う意味でアウトだ。
巻き添えを喰った、それだけなのに。
ある意味、秘密を共有してしまった
スリリングな出来事に背筋が凍りつく。
チクリと胸が痛んだのは、降谷さんに後ろめたさを感じているからだ。
狭いその中で、足音が遠退いていくのを、私はじっと息を殺して、身を硬くするばかりだった。
END