名探偵コナン

□家庭教師にトライ!〜赤井秀一の場合〜@
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夏帆が学校から帰ると、見知らぬ男が部屋にいた。

客人なら、母親がもてなしているはずなのに、姿は見当たらない。
しかも、その男はソファーに座り優雅に紅茶を飲んでいた。

「えっ………………だ、誰?ふほっ」

「ふほ?」

「ふほーしんにゅう?!」

まず、警察を呼ばないと。
お母さんは?!何でいないの!


怪しい男と距離を取るように後退りしつつ、夏帆がバックから携帯を取り出していると

「ほぅ。不法侵入とは面白いお嬢さんだ。で、侵入者とやらは、何処だ?」

「はぁ……」

返す言葉に詰まった。
というか、何処から突っ込めばいいんだ?
長い足を組み替えて、その男はしれっとおかしなことを言ったのだ。
この状況で、侵入者は彼しかいないだろう。


仮に両親の知り合いだとしても、他人の家を我が家のように寛ぐ姿は夏帆には理解できずに不信感が募る。

胡散臭い笑みを浮かべ、眼鏡の奥から観察するようにチラリと覗かせた瞳は笑ってなどいなかった。

もはや、怪しさMAXでしかない。

「どうしよう。不審者だ……」

夏帆がポツリと呟いた言葉すら、その男は聞き漏らさずに、静かに口角をあげて笑った。

「君は、想像力が豊なのか?それともただの馬鹿。なのか……。」
一瞥した冷たい視線が突き刺さる。

その佇まいすら、恐怖そのもの……。
消される!と、戦いた直後に、母親がリビングに戻ってきた。

「沖矢先生、すみません。探してみたのですが、我が家には生憎無いようでして……」

「いいえ。お気になさらずに……。此方の我が儘ですから。私の方で用意しておきますよ」

困ったように話す母親と、先程とはガラリと雰囲気を変えてニコニコと微笑む男の間で、夏帆は目を白黒させていた。
会話は全く理解できないが、確かに母親はこの、不審な男を先生と呼んだ。

どうみても……立ち振舞いはさっきまでとは別人だ。
(ひえぇー!恐ろしい。)

それが、"沖矢先生"と出会った最初の日の夏帆の印象だ。

沖矢昴というこの男は、母が知り合いから紹介された家庭教師だった。
英語と数学が壊滅的にポンコツな夏帆の為に、東都大学院生でとても優秀だと聞き付けた沖矢に、個人的に英語の授業をお願いしたらしい。

そんな経緯があり、週に2回夏帆は沖矢に英語を教えてもらっている。

しかし、今も沖矢が恐怖そのものであることに変わりはなかった。

「さて、始めるぞ。課題はちゃんとやってあるか?」

「先生、質問です!!どうして私の前だと口調が変わるんですか?
お母さんには、もう少し物腰柔らかな話し方なのに……。
今は、沖矢先生の素の姿のような気がしてならないんですけど……」

「ほぉ……口答えか、ん?」

「質問って、言ってるじゃないですか!!」

真正面切って、夏帆が詰め寄ると冷静な態度で沖矢は切り返した。

「それは、君が馬鹿だからだ」

「はい?」

「厳しくしてくれて構わないと、君のご両親に言われている。短時間でレベルアップするためには、仕方ないだろう?丁寧になど教えてられるか。まぁ、話し方は、楽だというのもあるが」

自覚はあったが、他人に馬鹿の烙印をポンと押されるのは腹立たしい!
だが、次の瞬間夏帆は顔を強張らせた。

言いながら、沖矢は徐に50センチの定規を取り出すと、左手に持ち始めた。

英語という教科に、そんなデカイ定規は必要だっけ?
夏帆は脳裏に浮かんだ仮説を否定したい気持ちで、またもや疑問を口にした。

「沖矢先生……。その(物騒な)定規は何に使うんですか?」

「俺が、君とおしゃべりをしに来た訳じゃないのは分かるな?」

静かに怒りのオーラが滲み出ている。
分かります!!と、オーバーリアクションで夏帆は首を縦に振ったが、こちらは死活問題だ。
絶対にアレで叩かれる!!

もはや、仮説でも何でもない、確定だろう。

「君の家には無いらしいからな、私物を持ってきてみた……」

「あぁ。初日に言っていたのは、コレのことだったんですね?
じゃ、なくて!!ぼっ、暴力は反対です!!」

納得している場合じゃないと、慌てて抗議した。

「確かに暴力はいけないな。コレは単に君のやる気Switchを押すだけのモノだから、安心してくれ」

定規片手に微笑む沖矢先生に、安心しろと言われても安心できる訳がない。
寧ろ、不安が募る一方だ!

色々と申したいところだが、夏帆は口をつぐむことにした。

先程から、沖矢はトントンと指でテキストを指示している。
無駄なおしゃべりは止めて、さっさとテキストを解け!!という無言の圧力をヒシヒシと感じているからだ。

黙々と問題を解き始めた夏帆だが、内心で"やる気スイッチ"等と他社の宣伝文句を使い、いつかあの定規で叩くのでは?と冷や汗をかくのだった。

END

2018,07,01


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