名探偵コナン
□安室祭り
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朝の通学通勤タイム
私は電車に乗っていた。
有り得ないほどに混雑した車内で、ぎゅうぎゅうと人波に体は押される。
ガタンと電車が揺れるたびに、よろけそうになるのを必死に耐えていた。
体力の半分は毎朝の通勤ラッシュで使い果たす。
吊革を握りしめ、おもむろに顔を上げると目の前に居た彼を凝視した。
「安室さんっ?」
驚いて思わず声をあげた。
だって、明け方近くに帰って来てベッドで眠っている安室さんを、起こさないように私は家を出てきたはずなのに?
いつの間に?
そんなことを考えながらも周りに目を向けると、
…え。
ええ?
前後左右すべての乗客が安室さんになっている。
何故か私は、安室さんによって包囲されていた。
いや、気がつかなかっただけかも知れない。
最初からそうだった?
そう思えるくらい、私は安室さんに囲まれていて……。
うはっ!テンションが…
ヤヴァイ。
鼻血が噴出しそうになった。
「僕は医師の安室」
「僕は教師の安室」
「僕は俳優の安室」
くるりと私の方に向き直り、次々と安室さんが名乗り出る。
「安室さんがいっぱい」
何これ!どの職業でもいいよ…素敵すぎて選べない!
いや、待って。
トリプルフェイスと言われる彼は多忙を極めているはずなのだ。
これ以上職種を増やしてどうするの!
しかし、振り返ってみても…安室さん!
その様、まさに安室祭り。
正気の沙汰とは思えない異様な光景に混乱よりも、興奮が勝る。
(ど、…どんだけ私は安室さんが好きなんだ?)
まだまだ、安室ラッシュは止まらない
次から次へと安室さんが名乗り出てくる。
「僕は外交官の安室」
「僕は裁判官の安室」
「僕は警察官の安室」
「僕はガンダムのアムロ」
最後の彼は何者?
警察官の安室さんは通常運転ではないか。
ぼんやりと思いながらも、ほぅ…と感嘆のため息が零れ落ち、暫し恍惚としていると、クイと腕を引き寄せられる。
安室さんに身体ごとギュッと抱きしめられて、すっぽりと腕の中におさまった。
この温もりを、私は覚えている。その感覚は懐かしく感じるほど。
数多の安室さんに目移りしたけど…忘れてないよ。
「そして、僕が探偵の安室透」
頭上から降るその声を、私は待ち望んでいた。誰よりも、探偵の安室さんが一番好き。
「やっと会えましたね?安室さん…」
そっと、腕を安室さんの背中に回した所で…目が覚めた。
夢、だってなんとなく分かってた気がしたけど、安室祭りをもうちょっとだけ堪能したかった!
でもね。
私は今も、隣に眠る安室さんに抱きしめられたまま、腕の中にいるのは、
紛れもない事実みたい。