名探偵コナン

□安室祭り
1ページ/1ページ



朝の通学通勤タイム


私は電車に乗っていた。


有り得ないほどに混雑した車内で、ぎゅうぎゅうと人波に体は押される。

ガタンと電車が揺れるたびに、よろけそうになるのを必死に耐えていた。
体力の半分は毎朝の通勤ラッシュで使い果たす。
吊革を握りしめ、おもむろに顔を上げると目の前に居た彼を凝視した。

「安室さんっ?」

驚いて思わず声をあげた。
だって、明け方近くに帰って来てベッドで眠っている安室さんを、起こさないように私は家を出てきたはずなのに?


いつの間に?

そんなことを考えながらも周りに目を向けると、


…え。

ええ?

前後左右すべての乗客が安室さんになっている。

何故か私は、安室さんによって包囲されていた。
いや、気がつかなかっただけかも知れない。

最初からそうだった?

そう思えるくらい、私は安室さんに囲まれていて……。

うはっ!テンションが…

ヤヴァイ。

鼻血が噴出しそうになった。


「僕は医師の安室」

「僕は教師の安室」

「僕は俳優の安室」


くるりと私の方に向き直り、次々と安室さんが名乗り出る。


「安室さんがいっぱい」

何これ!どの職業でもいいよ…素敵すぎて選べない!
いや、待って。
トリプルフェイスと言われる彼は多忙を極めているはずなのだ。
これ以上職種を増やしてどうするの!

しかし、振り返ってみても…安室さん!



その様、まさに安室祭り。



正気の沙汰とは思えない異様な光景に混乱よりも、興奮が勝る。


(ど、…どんだけ私は安室さんが好きなんだ?)


まだまだ、安室ラッシュは止まらない

次から次へと安室さんが名乗り出てくる。


「僕は外交官の安室」

「僕は裁判官の安室」

「僕は警察官の安室」

「僕はガンダムのアムロ」

最後の彼は何者?
警察官の安室さんは通常運転ではないか。
ぼんやりと思いながらも、ほぅ…と感嘆のため息が零れ落ち、暫し恍惚としていると、クイと腕を引き寄せられる。

安室さんに身体ごとギュッと抱きしめられて、すっぽりと腕の中におさまった。
この温もりを、私は覚えている。その感覚は懐かしく感じるほど。

数多の安室さんに目移りしたけど…忘れてないよ。


「そして、僕が探偵の安室透」

頭上から降るその声を、私は待ち望んでいた。誰よりも、探偵の安室さんが一番好き。


「やっと会えましたね?安室さん…」

そっと、腕を安室さんの背中に回した所で…目が覚めた。


夢、だってなんとなく分かってた気がしたけど、安室祭りをもうちょっとだけ堪能したかった!

でもね。
私は今も、隣に眠る安室さんに抱きしめられたまま、腕の中にいるのは、


紛れもない事実みたい。


次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ