名探偵コナン
□春の日
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今日は安室さんが公安勤務の日。
実はこの日を私は密かに楽しみにしていた。
だって、安室さんのスーツ姿が見られるから。
安室透
バーボン
降谷零
トリプルフェイスを持つ彼の日常は、私の思う以上に忙しい。
普段の出社スタイルは、ラフな服装が多いから、今日は一段と特別に思える。
高そうなスーツをスマートに着こなす安室さんは、やっぱり素敵だ。
ニヤニヤと頬が緩むのを我慢していると、玄関先で安室さんが不思議そうに振り返った。
「じゃあ夏帆、行ってくるよ」
「あっ、待って。安室さん、ネクタイが…」
一緒に住み始めて、まだ間もない。
私は未だに、安室さんを透さんと呼べずにいる。
いや、降谷さんなのか……零さんと呼ぶべきか?
迷いながら脳裏に浮かぶのは、安室さんとの出逢いだ。
気まぐれな春の雨に濡れ、喫茶店の軒先で雨宿りをしていると、お店から出て来た店員さんは、親切にタオルを貸してくれた。
本当の姿を知っていても、私の中では今も変わらず安室さんは、安室さんのまま。
「…ん?ネクタイ?」
玄関のドアノブに手を掛けた所で、安室さんが自分のネクタイを見やる。
「ちょっと、曲がって………ないです。嘘つきました。」
曲がったネクタイを直すことに、憧れを持っただけ。
後先も考えずに言って、いざ、本人を目の前にしたら、恥ずかしさの方が勝ってしまった。
「夏帆?ネクタイ直してみたかったの?」
「え、と。………その通りです。」
あっさりと本心を見抜かれて、自分の考えの甘さを思い知る。
「直してくれる?」
心の内で落ち込んだのを察してくれたのか、ネクタイをわざとずらした安室さんの仕草にドキッとした。
そんな安室さんの優しさに触れ、更に胸が締め付けられるのを感じながら、ぎこちない手つきで深い緑色のネクタイを整えた。
「安室さん…できました。」
「ありがとう」
「………ごめんなさい」
「どうして、謝るの?」
「安室さんが、優しいから」
「俺が優しいと、謝るのかい?」
「…はい。」
「なにそれ?」
安室さんは、アハハと声をあげて笑うと、私の頭を軽く撫でドアを開けた。
「留守番よろしくね。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
スーツ姿の安室さんが好き…でも、これは内緒だ。
麗らかな日差しに包まれた春の風が通り抜け、安室さんの髪先が揺れる。
運ばれた桜の花びらが、ふわりと舞い降りた。
出逢った頃と同じ、春の日。
いつもより、格好良く見える背中が小さくなるまで見送った。
2018,04,19
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