ハイキュー!!
□彼の部屋でベッドの下にエロ本を探してみる
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「名無し、りんごを沢山貰ったからお隣にお裾分けしてきてくれない?」と、母親にお使いを頼まれて、外に出ると冷たい北風に晒され、ツンと鼻の奥が痛い。
クリスマス目前の、師走の寒さは身に染みしる。
名無しが、りんごを届けに行くと、ちょうど部活帰りの澤村と玄関の前で会った。
「名無し?家に用事?」
「おかえり、大地。おばさん、いる?りんごを持ってきたんだけど。密が入ってて、美味しいよ」
出掛ける前に1つ味見をしてきた名無しが、赤く熟れたりんごの入った袋を澤村に渡した。
「おー、ありがとな。名無し、寄ってくだろ?」
「うん。お邪魔します」
人好きする笑顔で誘われては、断る理由もない。
澤村の後に続いて名無しも、勝手知ったる澤村家に上がり込んだ。
何度も訪れている澤村の部屋は、いつもながらシンプルに、そしてよく整理整頓されていた。くやしいが、自分の部屋よりもきちんとしている。と、名無しは思う。
「いつ来ても、大地の部屋は綺麗だよねぇ……。ムカつく!」
「物が無い。って、言いたいのか?」
ベッドに腰を掛けながら、名無しが冗談混じりに悪態吐くと、着替えを始めた澤村は、言いながら上着を脱いでいた。
バサリ。
「ちょ、わわッ……」
急に視界が黒一色に染まる。
名無しの頭の上に被せられたのは、澤村の学ランだった。
「名無し。それ、ハンガーに掛けといて」
「もうっ。自分でやりなよ!」
澤村の軽い悪戯に憤慨しながらも、名無しは、澤村の学ランを頭から 取ると、そっと両手で広げてみた。
毎日見ている制服だが、かなり大きい……。
「大地…。着てもいい?」
つい、着てみたくなり名無しが袖を通してみると、やはりブカブカだった。
まだ、澤村の温もりが残る学ランに身を包むと、なんだか抱きしめられているような気分になる。
目の前に、本人がいることなどすっかり忘れ、名無しが、ニヤニヤと頬を緩ませていると、全てを見透かしたような冷ややかな澤村の視線が突き刺さり、はた、。と正気に戻った。
「変態だな。で、……気は済みましたか?」
わざとらしい丁寧な口調が、軽蔑を強調している。
澤村を置き去りにして、名無しが自分の世界に浸ったことは自覚している。
だが、変態……とは、心外だ。
「変態じゃない‼」
「そうか?言ってくれれば、いつでも抱きしめてやるのに……」
「え、と。だ、だ…だいち?」
澤村が、ストレートに抱きしめてやる。などと、今までに言ったことはなかった。
ちょっと名無しをからかってやろうと、敢えて選んだ台詞だ。
聞き慣れない台詞と、よく通る低い声に耳を擽られ、名無しはほんのりと頬を上気させ、言葉を詰まらせている。
澤村は、残念そうに肩を竦めてみせたが、明らかに名無しの慌てぶりを楽しんでいた。
「さてと。飲みもの、取ってくる」
いまだに思考停止中の名無しの頭をワシャワシャと撫でると、澤村は笑いを堪えながら、部屋を出ていった。