ハイキュー!!

□攻防戦(澤村)
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予想は、していた。

こうなることを……。


だけど、予想以上の苦さと独特の匂い。
口内を満たしているドロリと溶けた白い水溶液が、自分の唾液と混じり合っているのを脳内で想像したら…

うぇっ…完全にアウト。

もはや、飲み込むことなど出来ない。
ぺッと吐き出せたら、どんなに楽だろう。と、名無しは思った。

しかし、目の前に居る澤村は、それを許さずジィー…と液体が喉元を通過する様を監視している。


ここで、吐いたら…。

いつもとは違う、澤村の無言の威圧に思わず背筋がゾクリとした。

しかし、一向に飲み込むことは出来ず、その液体は確実に名無しを苦しめている。本来、果たすべき効果とは真逆に…。


「名無し、飲み込んだ?」


「んーっ。ん、ん!(いやームリ!)」

口に含んだ液体のせいで話すこともままならず、ブンブンと首を横に振って、拒否の意志表示をすれば、澤村の表情も益々、険しくなっていく。

月島並みに眉間の皺を寄せて、眼光鋭く、飲みなさい!と言っているのが良く分かる。

目は口ほどに物を言う。

喋れない名無しが、うっすら涙目で、

(これ、飲まなきゃダメ?)

ここぞとばかりに、主張した。

「ダメに決まってんだろ…。飲まずに吐き出したら…俺はもう一回、飲ませるぞ?」

ベッドサイドのティッシュボックスをサッと、取り上げて、
「そうはなりたくないだろ?」と、
澤村はウロウロと視線を泳がして必死にティッシュを探す名無しの動きまでも制止した。

どうにか、こうにか…澤村も飲ませようと意地になっている。


先程まで、優しく身体を労ってくれたのに…。
こんな不味いものを、無理ヤリ飲ませるなんて、大地はドSだ!

心内で悪態を吐きながら、名無しはもう一度澤村に瞳を潤ませ訴えた。


「ん、んーン!!(ギ、ギブ)」

「そんな顔しても、駄目なものは駄目だ」

長い時間、こうしているような感覚だが、攻防が始まってまだ数分の戦いだ。

嫌だ、嫌だ…と首を振り駄々をこねる名無しの耳元で、澤村は、一段と低い声音を響かせ追い討ちをかけた。


「名無し、我が儘が過ぎるだろ?そんなに嫌なら、飲まなくていい…勝手にしなさい」


澤村の、半ば脅しにも取れるような言い方に、あれほど揉めた事態は意外にあっさりと終止符が打たれた。


えっ…と、驚くと同時に

「ゴクリ」

散々抵抗していたはずなのに…その液体は、何か条件反射のように一気に名無しの喉元を通過した。

しかし、逆戻りしそうになる。

「…うぐっ。」

手際よく、澤村が水を差し出し、事なきを得たのだが、

「ン…ハァ…二度と飲みたくないっ!もう、いらない」


澤村に突き放されるくらいなら、飲んだ方が賢明だと無意識に判断した名無しは、本能の恐ろしさを感じながら、息も絶え絶えに、訴えた。


「よし。頑張ったな、名無し。ちゃんと飲まないと風邪、治らないからな」

懐に潜り込んだ名無しの頭を宥めるように撫でながら、澤村は、あと2日分ある、処方された薬袋を手にして、盛大なため息を零したのだった。



End


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