ハイキュー!!

□キャプテン!幽霊です!!
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「澤村〜。」

バレー部が練習している体育館の入り口で、澤村の名前を呼んでみたが、練習の最中とあってか、掛け声やら、ボールの弾む音に掻き消され、全く聞こえていない様子に名無しはため息を溢して肩を落とした。

やっぱり、普通に呼んでも気付いてもらえないか。

かといって、大声で叫べば練習を中断させてしまう可能もある。迷惑を掛ける訳にもいかない。
第一、名無しはバレー部員達からの注目を浴びるのも怖かった。

なんとか、目立たずに澤村を呼び出したいのだが、当の本人は名無しに背中を向けている状態だ。
振り向かない限り気付きそうにもない。


名無しは体育館の中を誰か知り合いはいないかと、ぐるりと見渡した。

マネージャーの清水の姿はなく、唯一の頼み綱だと思っていたクラスメイトでもある菅原の姿を探しても見当たらない。

絶望的に思える状況に名無しは持っていたプリントを見据えた。

今日の生物の時間にグループワークで使用したレジメには、澤村大地と書かれている。
間違って紛れ込んでしまったプリントは、明日提出の課題が出ている為、澤村に今日、返さなければ名無しも帰れないのだ。

もう一度、そっと入り口から顔を出す。
パチッとオレンジ色の髪の男子と目が合って名無しは咄嗟に扉の影に隠れた。

隠れる必要はないのだが。
悪いことをしているわけでもない。
しかし、部活中の体育館とは、部外者にとって敷居の高いものだ。
アウェイな雰囲気に些か気まずさを感じたのだった。

「日向、ボゲェー!よそ見すんな。ボゲェー!」

「う、ウルセー。影山!い、今の見なかったのか?」

「あ?」

「い、今。入り口のところ…」

「入り口?そんなのより、ちゃんとボールを見ろよ!テメェ」

「っ、んだと!?」

体育館の中から聞こえてくる声が、段々とヒートアップしている。

「日向、影山、どうした?」

落ち着きを払った澤村の声を耳にし、名無しが今ならチャンスかもしれないと、抱いた期待はすぐに押し潰された。


「キャ、キャプテン!聞いてください。入り口の所…おん、女の幽霊が立ってました。すぐ消えたんですよ。お、俺、目が合いました!本当なんです。」


「「はぁ?」」

思いも寄らないその言葉に、体育館内から失笑が漏れ始める。

「アハハ!女の幽霊って、居るわけねぇだろう、なぁ、龍。」

「当たり前だ、まだ夕方だぞ。夜中ならともかく…。まさか、まさか、ノヤっさん。ひょっとしたら恥ずかしがり屋な女子が俺達を覗きに来たんではないか?なんと、奥ゆかしい…。」

「龍、マジか?」


「幽霊は有り得ん。マジの女子だろ?」

「田中と西谷目当てかは、別だけどな?」

「縁下くん?それ、どおゆう意味デスカ?」

「ほらみろ、日向。練習止めやがってボゲが。」

「だって!俺、本当に見たんだよ。パッて消えたんだよ!」

「生きてるか、死んでるかも分かんないの?日向、馬鹿なの?」

「ナイス!!ツッキー」

中から聞こえてくる会話の内容で、自分が幽霊だの、恥ずかしがり屋の女子だのと、粗雑な扱いにされていると確信した名無しは、口をあんぐりさせて固まった。

もはや、男子バレーの部員はアホの先鋭しかいないのか…?


些細な発端は、騒々しさを増す一方だ。




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