バクマン。

□平丸和也の日常
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「もう、限界だ。」


"捜さないでください。※特に吉田氏"

と、書き置きを残してそのまま部屋を飛び出した。

漫画家なんぞ、やってられるか!!


不満を爆発させながら、

どこか遠くへ行きたい。

どこか遠くへ……。

どこかって、どこだ?

考えながらも、気の向くままにひたすら歩き続け、たどり着いた場所は海が見渡せる公園だった。

吹く風は心地よく、天気も良。
午前中とあって、人も少なくちょうどいい。
適当にベンチにでも座って休もうと、一度足を止め
「はぁー」とため息をつく。
再び、フラフラ歩きだしたその時、誰かに呼び止められた。

「あの、これ、落としましたよ?」

「へっ?」

僕は今、背後から声を掛けられている?

しかも、女性に?

背後から、声をかけてくると言ったら
早く描けとか、早く描けとか…
(重要なので二回言いました)
時には無言の圧力とか、早く描け!!とか…。
悪魔の担当編集者、吉田氏くらいだ。
しかし、声を聞いただけでも分かる
きっと、彼女は可愛い(はず)と。

猫背のまま、ダラダラとしていたがシャキッと、一瞬で背筋を伸ばす。

「僕に何か用ですか?」

振り返ってみたら、やっぱり見覚えのある、天使(のような女性)が立っていた。

え、おかしくない?無意識に見覚えあるって。

「これ、大切なもの…ですよね?」

ゆっくり歩み寄って来た彼女から、ふんわりいい香りがする。あぁ…この、年下(であろう)美人に甘えてみたい。
妄想中の僕の目の前で、彼女から「はい」と差し出された、
…僕が落とした物?

「げぇっ!!」

一気に目の前が暗くなる。
家を出る時に、ぐちゃぐちゃに丸めた、描きかけの下書き用紙だ。
ズボンのポケットにいれたんだっけ?
ご丁寧に、開いてシワまで伸ばしてくれている。
風に靡く薄っぺらい紙を受け取ると、僕は賺さすお礼を言った。

「ありがとうございます。お礼にお茶でもどうですか?」

「あはは。平丸先生って面白い方ですね」

わ、笑われてる?
ナンパだと思われたのか?

ハッ…今、平丸先生って?

てか、僕の素性が何故バレてるっ?
見覚えがあると思ったのは気のせいではないのか?
あわあわしている僕の前で、彼女は、不思議そうな顔をした。
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