バクマン。

□エンドレスゲーム
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平丸くんから電話があった



「吉田氏…僕はもう描けない!描きたくない…そもそも世間は休みの中、何故、僕だけ働くんだ?吉田氏だって、休みのくせに………(彼女とイチャイチャ許せん…)」


「平丸くん…描けない、描きたくないじゃなくて…描くんだよ、いいか!よく聞け!…」


「でたよ。よく聞け!聞きたくない!聞いてたまるかっ!この、よく聞け詐欺師め!ブチッ…ツーツー…」


「平丸くん?…切りやがった」


世間はGWだが…
漫画家には無関係だ


心配になって、こっちも休日返上で来てみれば、案の定この様だ…


部屋に平丸の姿はない

「どこ行きやがった、あのヤロー…、ペン入れが全く進んでいないじゃないか!」


「ねぇ、平丸くんは?」

背中に冷や汗をかきながらペン入れ中のアシスタント君に声をかけた


「せ、先生…は、トイレに行くと…………」


しどろもどろになりながら、アシスタント君は「行くと…」から続きの言葉は無く、押し黙ってしまった

いや、言えなかったのだろう

見るからに、俺がキレてるからね


平丸くんのデスクの上には

"探さないでください!特に吉田氏!!"

と、書かれた置き手紙


ふざけたことをしてくれるじゃないか?

毎回、毎回…同じことを


探すな…だと?


あのヤロー


探すに決まってんだろっ


逃亡を繰り返す度に俺は

この担当編集者を信頼していいのか?と

平丸くんに試されてるのではないか?という気持ちになる


零れ落ちるのは溜め息ばかり…無言で怒りに任せながら、手紙をクシャリと握りつぶすとドカッとソファーに腰を据えて脚を組んだ


アシスタント君のカリカリとペンを動かす音に紛れて、「ヒィッ」と小さな悲鳴が聞こえた気がした

あー…

クローゼットの中か?

逃亡前に、俺が到着したという訳だ?


「へぇー平丸くん家のトイレって、クローゼットの中にあるんだ…」


カリカリとペンを走らせていたアシスタント君の肩が一瞬ビクッと揺れ、止まったペンがまた動き出す


「あわわ」と、何処かから、焦る声が漏れ聞こえる


無駄に広く、無駄に整理整頓され、無駄に蒼樹先生の写真を貼り付けまくりの仕事部屋には、初夏なのにも関わらず、冬のような冷たい空気が漂っていた


「…………」


いや、もう本当に
探してやるの止めてみようかな?


心にも無いことを考えて
クスリと自嘲気味に口元を静かに歪めて笑った


漫画は誰にでも読めるけど、面白い漫画は誰にでも描ける訳じゃないから
平丸くんの才能に、俺は惚れたんだけどな?


そんな俺の思いは、当然平丸くんは知る由もないし、教えてやるつもりもない



鬼だとか

悪魔だとか

吉田だとか



ドSだ

ロン毛だ

ナルシストだ


と、散々言われても…


俺は敢えてこの言葉を選ぶ


「平丸くん?居るのは分かっている。大人しく出てきなさい!」



それが、平丸くんに対する俺なりの接し方


逃げても
必ず探し出す



掴まえても
また逃げ出す

いつまで続くのか
終わりの見えないエンドレスゲーム

これが俺と平丸くんの通常なのだから
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