バクマン。
□正直、困る
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「ねぇ?吉田さん。このズラーって本棚にある漫画、お薦めってあるの?」
「ん?ソレか?…全部、オススメしたいけど?」
「全部…って…こんなにいっぱいは…無理かも」
いきなりどうしたかと思えば、漫画編集者って、こんなに沢山漫画を持ってるの?と、問われて思わず苦笑する。
明日は仕事が休みで、まだ眠くないらしい。お薦めを聞いてきたわけだが、既に手に取った漫画を見せて「吉田さん…これ、読んでもいい?」と言ってきた
「うむ。スラムダンクか…懐かしいな。俺はまだ仕事が残ってるから、好きに読んでくれて構わないが」
「やった。ありがとう」
ルンルンとしながら果歩はソファに座って漫画を読み始めた。
本当は、今、担当している平丸くんの"僕には通じない"を…なんて、考えていたのだが…
読みたいものがあるのなら…と、思い直してやらねばならない起案書に取り掛かった。
いつしか室内は、カタカタとPCのキーボードを叩く音とペラ、ペラとページを捲る音に時折、果歩の「クス」とか「アハハ」など笑い声が漏れるくらいで、それは穏やかな空気に包まれている。静かに夜は更けようとしていた。
その時…
「うっ…ふぇ…ぐす」
ん?泣いてんのか…?
あと少しで俺の仕事も片付くというところで、果歩の泣き声に気づき、キーを打つ手を止めた。
まぁ…確かに…笑いあり涙あり…の、大人気だった青春スポーツ漫画だからな。果歩の方へ向き合うように、椅子ごと振り返ってみれば
「うわーん!ミッチー!!」
「う、おいっ…、と」
泣きながら、飛び込んでくる果歩を全身で受け止めた
しかし…俺にしがみついて
「ミッチー」「ミッチー」と、連呼しながら、うわんうわん泣かれても…
正直…困る
Tシャツを引っ張ってタオル変わりにされても
正直…困る
「てか…俺、ミッチーじゃないからな?」
「…似てるじゃないですか。うぅっ」
「似て?…似てねぇーよ!」
「眉間の皺とロン毛が…」
「そんな奴、どこにでもいるだろ…」
「いません。『バスケがしたいです』って、言って再現して下さい…グスン」
「言うかよ、馬鹿」
「じゃあ…もう少しだけこうしていて…いいですか?……(ミッチー)」
腕の中で、素直に甘えてくるのは嬉しいが…
「ん?最後…また、ミッチーって、呼ばなかったか?」
「ふふっ。言ってませんよ〜やだなァ…。」
…いや、言っただろ。可愛いらしく微笑んで同時に涙が引っ込んでくれたことにホッとした
………が
「果歩、ミッチーは、髪、切った後の方が男前度ハンパねぇーんだよ…知らないのか?」
ピシッと複雑な心境を上乗せしてデコピン食らわせた
(正直、軽くミッチーに嫉妬した…なんて言ったら、君は困ってくれる?)
15*11*15*END(リメイク)