バクマン。

□編集者のお仕事
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「吉田氏イィィ―ッ!!」


「なんだよ、平丸くん。来て早々…」

原稿を取りに訪れた吉田を見るなり平丸は、間髪入れずに詰め寄った。

「チョコはッ!?今日はバレンタインデーです!」

そわそわしながら、担当編集者にチョコを催促する成人男性など、見たことがない。

「あぁ、そうだったな。一週間前から平丸くんは、ずっと言ってたな。"チョコが欲しい"と」

「そうですよ〜。さっさと、ください!チョコレート」

「ほら。受けとれ」

吉田は、足元にまとわりつく平丸を一瞥すると、持ってきた紙袋を面倒そうに渡した。

「ぬおぉぉ…!"平丸くんへ"?ちょっと字が崩れてますが、それがまたいいっ!果歩さんの愛情が詰まってる。いやー、悪いですね吉田氏!!彼女の手作りチョコを僕まで貰っちゃって!あははは…?あれ?吉田氏?、顔が…ヒィ!」

ガサガサと包みを開け、喜んだのも束の間。
見上げた視線の先には、極悪人面の吉田がいる。思わず平丸は恐怖におののいた。

「平丸クン。果歩の愛など1ミリも入っていないぞ。そのチョコを作ったのは俺だ!!だが、俺の愛も100%入ってないから、安心しろっ」


「貴様ッ、また俺を騙したのかッ」

「騙してなどいない、君は"チョコ"が欲しいと言った。別に、誰からのとは言わなかった…。
だから、果歩が俺の為に作ってるチョコを分けて貰って、わざわざ俺も一緒に作ってやったんだ。少しは感謝をしろよ」


「説明なげーし!誰がアンタのラブラブクッキングなノロケ話を聞くんだ!何が俺の為のチョコを分けた、だっ。ふざけんなッ…ん?」

平丸が吉田の甘い餌に釣られ騙されるのは日常茶飯事だ。
それで、人気作品が描けるのだから結果オーライではないか。
しれっと嘘を吐き、更に惚気を放り込んでくる吉田と正面切って睨み合いながら、平丸が紙袋の中身に気が付いた。

「吉田氏、袋の中にもう一個ある…」


「な…何だって?(果歩、いつの間に入れたんだ?)」


「正真正銘、果歩さんからのチョコだぁ!こっちには、絶対に愛が詰まってる〜。ざまぁ、吉田氏!」

「くっ…そうか。良かったな……じゃ、そのモチベーションで原稿、書いて!」


いつになく、喜々としてデスクに向かう平丸の背中をじっと睨んで、ため息を吐く。

心境は複雑だ…。自分の彼女を餌にしてまで、描かせてる。
いったい、編集者の仕事って、なんなんだ?と、柄になく自嘲しながら……

これからも、俺の仕事は平丸くんに面白い漫画を描かせることには変わりないのだと、吉田は確信するのだった。



END
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