バクマン。
□彼と彼
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発端は、些細なこと…
「絶対に譲れません、スナフキンの方が可愛いです」
「あの茶色の動物か?それより、ミィの方が可愛いだろ?ちょこまかしてて…しかもミィの方がお姉さんだ!異父姉弟なんだぞ?」
「茶色?動物?吉田さんそれ、スニフじゃないですか?」
「名前が似てるだろ、スニフとスナフキン区別がつかない(ウソ)」
「顔も名前も、全く似てないでしょ!!スナフキンとミィが姉弟なんてことまで知ってるくせに!」
お家デートにもすっかり慣れて、我が家のように吉田さんの部屋で寛ぎながら、ムーミンキャラについて低レベルな言い争いをしてる私達は、世界一、暇なカップルだ。
「ふーん、で?」
「な、…なんですか?」
お揃いに買ったラッコ部長のマグカップをテーブルに置くと吉田さんが、じりじりと詰め寄ってくる。
「"スナフキン"のどこが魅力なんだ?」
真顔で聞いてくる、吉田さんの背後になんだか嫉妬が見え隠れしている。
確かに可愛いとは言ったけど…
「み、魅力?やっぱり…"声"かな?」
正直に言って早速、後悔した。吉田さんの眉間の皺が、一気に三割増すと、なにやら考えているように顎に指を添えた。
これは、ヤバイ。経験からいえば、悪い予感しかない。
「"声"だって?…僕と、どう違うんだい?」
してやった、とばかりな声色に惑わされる。
「よ、吉田さんがソレを言ったらダメですよっ!…って、アレ?今の声は?スナフキン?それとも、吉田さん?」
「さぁな。どっちだ?」
「もぅ!」
「スナフキンの声の方が、好きなんだろ?」
気がつけば、座っていたはずなのに視界はクルッと反転していて、背中はソファーに押し付けられていた。
「僕に、抱かれてみるかい?」
彼じゃない、彼の声。
耳元で囁かれる甘い誘いに、思わず靡きそうになる。
「……スナフキンじゃなくて、やっぱり吉田さんがいいです。」
「そうか?」
満足そうに口元を引き上げて笑うと、おでこにチュッと、短めのリップ音立てたあと吉田さんの身体がスッと離れた。
「スナフキンが"抱かれてみるかい?"なんて台詞、言うわけないだろ…バァーカ」
にっこり笑う表情と、その口調が全く噛み合っていなくて、恐ろしい
「くっ…くやしいっ。遊ばれたっ!」
END