その他

□フェティシズム
1ページ/4ページ



(行ってらっしゃい編)



今日はジャック編集部の新年会


実はこの日を、(吉田さんより私の方が)楽しみにしていた。

だって、吉田さんのスーツ姿が見られるから…
何より、私はスーツ姿の男性に萌える

いや、正しくは吉田さんが着るから、だと思う。普段の出社スタイルはラフな服装が多いから、今日は一段と特別に思える。


「じゃあ、果歩行ってくるよ」

「あっ、待って、吉田さんネクタイ…」

一緒に住み始めて、まだ間もない。私は未だに、吉田さんを幸司さんと呼べずにいる。

「…ん?ネクタイ?」

玄関のドアノブに手を掛けた所で、吉田さんが振り返った。


「ちょっと、曲がって………ないです。嘘つきました。」

曲がったネクタイを直すことに、憧れを持っただけ。後先も考えずに言って、いざ、本人を目の前にしたら、恥ずかしさの方が勝ってしまった。

「なんだ?ネクタイ直してみたかったのか?」

「…その通りです。」


あっさりと本心を見抜かれて、自分の考えの甘さを思い知る。

「果歩、直して?」

心の内で落ち込んだのを察してくれたのか、ネクタイをわざとずらした吉田さんの仕草にドキッとした。そんな吉田さんの優しさに触れ、更に胸が締め付けられるのを感じながら、ぎこちない手つきでネクタイを整えた。


「吉田さん…できました。」


「ありがとう。」


「…ごめんなさい」


「どうして、謝る?」


「吉田さんが、優しいから」


「俺が優しいと、謝るのか?」


「…はい。」

「なんだそれ?」

吉田さんは、笑いながらポンと軽く私の頭に手を乗せた。

「留守番よろしく」

「行ってらっしゃい」


スーツ姿の吉田さんが好き…でも、これは内緒だ。

いつもより、格好良く見える背中が、小さくなるまで見送った




(お帰りなさい編)

次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ