タイトルなんてない。
□1・零くんとの時間
1ページ/1ページ
「頑張っても、…………5分。残念だけど、それ以上は無理だな」
抹茶ラテに口を付けながら、零くんは腕時計に視線を落とし時間を気にしている。もっとゆっくりしたいのに……。
「零くん、5分でイっちゃうの?」
「言い方に気をつけろよ?怒るぞ。あー、後3分だ」
「3分て……。零くん、ウルト●マンだよ、ソレ」
「あぁ。言うと思った」
チュルル〜とタピオカ入りさくらミルクティーを味わってからストローを離す。
クスッと笑う零くんが、ジャケットの内側から財布を取り出したところで、その手をやんわり掴んで留めた。
「零くん、今日は私が誘ったんだよ?」
「だからと言って、それを俺が許すと思うか?」
「まだ、プリンも食べてないよ?」
「名前は、ゆっくり食べてから帰ればいいよ」
宥める口調で零くんに、ポンポンと頭を撫でられた。
そうやってすぐに子供扱いをする。
私だって、今じゃ社会人の端くれなのに。
「慰め方は昔と変わらないね、零兄……っ、」
うわぁ……思わず口にしてしまった。
顔が熱くなるのが自分でも分かる。
零くんも驚いて、目を丸くしている。
あぁ……詰んだ。
「久しぶりだな。名前に、そう呼ばれるの。だから、今日は"零兄"の奢りだ。それから、赤井が来てもアイツとは口をきくなよ?」
まるで、この後に赤井さんが来ると確信した口振りで、言いたいことだけ伝えた零くんは、急いでカップを飲み干した。
「また、来月な?今度は俺から連絡する」
「うん」
抜かりなく約束を取り付けると、スッと立ち上がった零くんを見上げた。
「れ、零くん……。今日も、…………ご馳走さま」
月に一度、零くんとお茶をしながら近況を報告するのが常になっている。
でも結局、毎回零くんにご馳走になってしまうのだ。
「可愛い"妹"なんだから、気にしなくていいんだよ。じゃあ、またな。」
零くんの悪戯っぽく笑う仕草に、思わず幼い頃の面影が脳裏に浮かんだ。
"名前、大丈夫。泣くな!"
私が泣いてると、駆けつけてくれた零兄の背中に、いつも隠れて守ってもらったっけ。
既に支払いを済ませて、お店を後にする零くんの後ろ姿を見送った。
その背中は、今でも精悍な佇まいだった。
「零くんは、いつまでお兄ちゃんでいるつもりなんだろ……?私も、もう子供じゃないのに……」
だけど、零くんとこうして過ごす些細な時間がなくなってしまうのも、なんだか少し寂しい気もする。
…………ん?
兄(零くん)離れできてないのは、私の方かな?
自分の思考に、胸の中がモヤモヤとするのだった。
END