タイトルなんてない。

□1・零くんとの時間
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「頑張っても、…………5分。残念だけど、それ以上は無理だな」

抹茶ラテに口を付けながら、零くんは腕時計に視線を落とし時間を気にしている。もっとゆっくりしたいのに……。


「零くん、5分でイっちゃうの?」


「言い方に気をつけろよ?怒るぞ。あー、後3分だ」


「3分て……。零くん、ウルト●マンだよ、ソレ」

「あぁ。言うと思った」

チュルル〜とタピオカ入りさくらミルクティーを味わってからストローを離す。

クスッと笑う零くんが、ジャケットの内側から財布を取り出したところで、その手をやんわり掴んで留めた。

「零くん、今日は私が誘ったんだよ?」

「だからと言って、それを俺が許すと思うか?」

「まだ、プリンも食べてないよ?」

「名前は、ゆっくり食べてから帰ればいいよ」

宥める口調で零くんに、ポンポンと頭を撫でられた。
そうやってすぐに子供扱いをする。
私だって、今じゃ社会人の端くれなのに。

「慰め方は昔と変わらないね、零兄……っ、」

うわぁ……思わず口にしてしまった。
顔が熱くなるのが自分でも分かる。
零くんも驚いて、目を丸くしている。

あぁ……詰んだ。


「久しぶりだな。名前に、そう呼ばれるの。だから、今日は"零兄"の奢りだ。それから、赤井が来てもアイツとは口をきくなよ?」

まるで、この後に赤井さんが来ると確信した口振りで、言いたいことだけ伝えた零くんは、急いでカップを飲み干した。

「また、来月な?今度は俺から連絡する」

「うん」

抜かりなく約束を取り付けると、スッと立ち上がった零くんを見上げた。

「れ、零くん……。今日も、…………ご馳走さま」

月に一度、零くんとお茶をしながら近況を報告するのが常になっている。
でも結局、毎回零くんにご馳走になってしまうのだ。

「可愛い"妹"なんだから、気にしなくていいんだよ。じゃあ、またな。」

零くんの悪戯っぽく笑う仕草に、思わず幼い頃の面影が脳裏に浮かんだ。

"名前、大丈夫。泣くな!"

私が泣いてると、駆けつけてくれた零兄の背中に、いつも隠れて守ってもらったっけ。

既に支払いを済ませて、お店を後にする零くんの後ろ姿を見送った。

その背中は、今でも精悍な佇まいだった。

「零くんは、いつまでお兄ちゃんでいるつもりなんだろ……?私も、もう子供じゃないのに……」

だけど、零くんとこうして過ごす些細な時間がなくなってしまうのも、なんだか少し寂しい気もする。

…………ん?
兄(零くん)離れできてないのは、私の方かな?


自分の思考に、胸の中がモヤモヤとするのだった。


END


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