ハイキュー!!
□Love actually
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住宅街の庭先に飾れた、イルミネーションがキラキラと輝き商店街からはクリスマスソングが流れている。
クリスマスイブの今日は、どこもかしこも賑わいをみせていた。
クリスマスに会いたい人がいる幸せ…。
そんなCMが流れていたのを思いだし、名無しは口元を緩ませた。
名無しが会いたい人……。
それは、もちろん澤村だ。
「名無しちゃん、お留守番よろしくね。じゃ、行ってきまーす」
「は〜い。おじさん、おばさん気をつけて!じゃ、お邪魔しまーす」
玄関先で、バッタリ。入れ違いに挨拶をすると澤村の両親は仲良く出掛けて行った。
「ウチの親、仙台でも有名なホテルのクリスマスディナーのペアチケットが当たったみたいでさ……」
澤村からそう聞かされたのは、先週のこと。
「部活も夕方で終わるし、クリスマスは家に来るか?」
嬉しいお誘いに名無しは1つ返事で喜んだ。
お膳立てされたわけではないが、せっかくの機会だ。二人で楽しく過ごしたいと名無しは思った。
「大地?入るよ〜」
「おう。」
澤村の部屋に上がり込んだ名無しはベッドの上の洗濯物に目が止まった。
綺麗に畳まれた状態で、丁寧に重ねてある。
おそらくは、澤村の母親が、洗濯をして置いていったものだろう。
「あ、七転八起Tシャツだ‼私、これ…好きだよ。大地にピッタリの言葉だから」
一番上にあったオレンジ色のTシャツを手に取り名無しが顔を綻ばせるていると、課題に向かったまま澤村が返事をした。
「文字Tシャツなら、名無しも持ってるだろ?」
「え、」
何故、それを……。
二の句を継げずに名無しが澤村を見れば、視線を感じたのか澤村は問題を解くのを止めて顔をあげた。
「〆切は待ってくれない……だっけ?あのTシャツさ、合宿の時に音駒の主将も着てたんだけど……アレって流行ってんの?」
「し、……知らない」
「ふーん」
くるり。澤村の指先で器用に回されたシャーペンが、パシッと綺麗に定位置に戻る。
澤村の手元を注視しながら、はて?と名無しは考えた。
音駒の主将とやらは、誰なのか……。
名無しは全く知らないし、流行っているか?と聞かれたら、〆切は待ってくれないTシャツはマニアックな部類に入るレア物だ。
それを、名無しは誰にも知られないように、こっそり内緒で購入したのだ。
もちろん着たことなど一度もない。
困惑の表情を浮かべた名無しに、澤村が当然のように口を開いた。
「いや、どうして知ってるの?って、顔してるけど、普通に部屋にあったぞ?」
「あれ?そうだっけ……」
全ては名無しのズボラな性格が原因だった。独り悶絶する名無しを他所に、再び課題を取り組み始めた澤村は、気にすることもなく名無しを呼び寄せた。
「なぁ、この問題の解き方合ってる?」
「え、ど……、どれ?」
気後れ気味に、あたふたと名無しが澤村の隣に座ると、半径30pの距離で感じるふわりと甘い優しい香りが澤村の鼻先を擽った。
まさにハピネス!
思わず、澤村の体がピクリと震えた。
名無しの首筋に顔を埋めて匂いを確かめたい。
いやいやいや。なにを考えてんだ俺は。
衝動に駆られながら、ぐっと我慢する。
「大地?大丈夫?」
「え、うん?(大丈夫じゃない)」
澤村の不埒な考えなど、露知らず。
名無しは、にこやかな笑顔を向けてくる。理性を惑わされながら、張り付けた笑顔で澤村は問題を指差した。
「この問題は……」
一先ず、問題に集中して答えを導き出すのに格闘している名無しを横目に、澤村は、課題に手をつけたことを後悔した。
なんたって、今日はクリスマスイブなのだ。
本音を言えば、受験も部活も少しだけ忘れて、名無しと特別な時間を過ごしたい。
運よく両親不在とあらば……。
そうなる、と。
手を伸ばせは、名無しは自分の胸にすっぽりと収められるくらい傍にいる。
今すぐ、抱きしめたい。
そわそわと、逸る気持ちを抑えきれず
澤村は、これ以上理性を保つことに限界を感じた。