ハイキュー!!

□彼の部屋でベッドの下にエロ本を探してみる
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キスをねだったわけではない。
だが、雰囲気的には、澤村の方が正解のはずだろう。

しかし、後ろめたさを秘めたままで、自分を愛そうとしてくれる澤村を、素直に受け入れるのは辛かった。
このまま、澤村のペースに身を任せては、後々もっと言えなくる。

理由も分からず、寸でのところで拒まれた澤村は、僅かに眉間に皴を寄せ、釈然としない表情をしている。

「違うって、何が?」

澤村の怒気を含んだ声に詰問され、漸く名無しは白状した。

「大地がいない間に、弱みを握って仕返しをしようと、その、エロ本を……。探してました。
でも、やっぱりそれってさ、人としていけないことだよね。すっごく、後悔した……」

「エロ本……?」

キスを拒んだ理由には関係のないような、予想外の告白に澤村も一瞬、呆気に取られた。

「はぁ?何やってんだ、お前」

「だって、」

「だって、じゃないだろ」

詰め寄ろうとする澤村と、距離を保とうとする名無し。
お互いに、ぐぬぬ………と、唸り両の手の指を絡ませ牽制しあっている。

しかし、力で澤村には勝てるはずもない。
徐々に名無しが仰け反り始め、背中はベッドへと完全に押し倒された。

名無しが澤村を仰ぎ見れば、憤然な面持ちで見下ろされている。

ひぃっ……。喉奥で小さく悲鳴を上げて名無しは身を竦ませた。
ロックオンされた状態では、もはや抵抗のしようもない。

「なぁ、名無し。今、それを言う必要はあったのか?(心臓に悪いだろ)」

「言わなきゃ、キ、キスもちゃんと出来ないよ!大地に悪いじゃん 」

(俺のいない間に、部屋でエロ本を探したから?
だから、キスはしないって……。
なんだ、律儀か。いや、意味が分からない)

澤村にとっては、不在中にエロ本を探されるよりも(隠し場所には自信がある)キスを拒まれたことの方がよっぽど、傷ついた。

(それなのに、俺に悪いとは?)

自分勝手にも程がある。

「ふーん。俺に悪いって?どの口が言ってんの?」

澤村はスッと、名無しの柔らかな両頬に手を伸ばし、お返しとばかりにグイっと引っ張った。


「っ!だ、だいひっ。いひゃい」

「その前に、ちゃんと言うことがあるだろう?」

俺はまだ、聞いてないぞ?と、名無しを見下ろしたまま、澤村が訊く。

あ、あぁ……。
エロ本を探した結果か?
それとも……。偶然見つけたダルマのことか?
アルバム、見ちゃったこと?
名無しは思い当たりをぐるぐると巡らせたが、多すぎる。

これ以上、出来る限り澤村を怒らせたくはない。

ごめんなさい。何を言えばいいのか、わかりません。
じっ……と、名無しは視線を投げ掛けると、澤村も無言でじっ……と、睨み付けた。

いつもなら、澤村の迫力に恐れをなして視線を逸らす場面にも、名無しは、しゅんとしながらも、見つめてくる。

暫しの重い沈黙に、このままでは埒があかないと、澤村は折り合いをつけることにした。

決して、名無しに甘い訳ではない。仕方なくだ、と自分に言い訳をしながら……。

「反省……してるのか?」

コクコクと必死に肯定をアピールする
名無しを心の内で笑うと澤村は、戒めるように口を開いた。

「ごめんなさい、は?」

「!ご、ごめん、なはい!」

「よし」

澤村は、やれやれと、軽くため息を吐き、さして痛くはないはずの頬からパッと手を離した。
それから、手を差し出して名無しを、優しく引き起こしてやる。

「だいち?」

恐る恐る、窺うように名無しが澤村の名前を呼んだ。

「うん?」
「大地!ごめんね」
「お、っと。」

澤村は懐にストンと飛び込んだ、名無しを確りと、受け止めた。
素直に甘えてくるのは、やはり嬉しい……。

キスのやり直し…、をしたいところだが、澤村にはまだやり残したことがあった。

「名無し、なに抱きついてんの?」

「だって大地、いつでも抱きしめてやる。って、さっき言った。」

「説教中は例外だ。まだ、終わってない」

「え!まだ、(…終わってないの?) 」

とはいえ、澤村も今更名無しを離す気はなかった。
その証拠に、名無しは、澤村の胸の中にいて、驚き顔を上げた。

「名無し、探しものは、……あったのか?」

いくら、隠し場所に自信があったとしても、そこは確認しておく必要がある。

「エロ本、……みつからなかった。」

「当たり前だ。そう、簡単に見つけられると思うなよ?」

澤村は否定しなかった。

食えない笑顔で言ったのが殊更、恐ろしい。

やはり、この部屋の何処かにエロ本が隠されているのだと、懲りずに名無しはそわそわと、視線を漂わせた。

「探すなっ!」
「はぃっ」

澤村にピシャリと雷を落とされ、名無しは再び身を竦めるのだった。


end
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