仁王くんとカフェへ。
□開店
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最近俺の家の隣にカフェができた。
落ち着いた雰囲気の、オトナっぽい店。
以前は定食屋があったのだが狭すぎる、と無くなってしまった。
だからカフェができると言ってもすぐ無くなってしまうんだろうと思っていた。
でも興味がないわけではない。
そこに足を運んだのは高校でも続けているテニス部の活動を終えたあとだった。
軽食があればそこで晩ごはんを食べてしまおう。
そんなことを思いながら足を踏み入れた瞬間、ドアに下がっているベルのような音がなった。
「いらっしゃいませ」
静かな、それなのにはっきりと聞こえる綺麗な声が耳に届く。
そちらを向くとひとりの女性がコーヒーカップを持ちながら微笑んでいた。
「1名様でよろしいでしょうか?」
「あぁ…はい」
思わずどもりながらも答えるとお好きなお席へどうぞ、といってコーヒーカップをほかの席に持っていってしまった。
ひとりで2人席に座るのは申し訳ない気がしてカウンター席に腰かける。
程なくして帰ってきた女性は俺の前に水とメニューを置いた。
「ご注文お決まりになりましたら、お声がけください。」
ニコリとしてから俺の前で作業をし始める。
動作の一つ一つが綺麗だと思った。
ちょっと見てからメニューに目を移す。
思ったより種類が豊富そうだ。
晩飯だし、とカレーとアイスコーヒーに決めると、すんません、と目の前の人を呼ぶ。
こちらに気づいた彼女はすぐ作業をやめ、メモを取り出した。
「はい、お願いいたします。」
「カレーとアイスコーヒーで。」
「かしこまりました。メニューお預かりしますね。」
メニューを渡すとまた微笑んで軽く会釈してきた。
すぐに準備を始めたようだ。
目の前で料理をしているので全てが見える。
彼女の行動には一切無駄がなかった。
…いや、そう見えただけなのかもしれない。
ご飯にカレーを注ぐ様子でさえ綺麗に見えてしまうから。
その綺麗さが無駄を全く感じさせなかった。
「お待たせいたしました。」
彼女は目の前にカレースプーンを置いたあとカレーライスを置いて、コースターとコーヒー、ストロー、ミルク、ガムシロップを丁寧に並べた。
「ごゆっくりどうぞ。」
また微笑みを浮かべて作業に戻ったようだ。
俺はひとくちまず口に運んだ。
おいしい。
家で作るようなものと違って、初めて食べる味だった。
コーヒーも店特有のものなのだろう、いい香りでインスタントなどではないようだった。
全て食べ終わると目の前にまた人が立ったのが分かった。
顔を上げると、あの人。
「突然なんですが、甘いものは大丈夫ですか?」
少し不安そうに聞いてくるがなぜそんなことを聞くのか。
とりあえず頷いておく。
「よかった…、もし良かったらいかがですか?」
そういって出してきたのはチョコレートケーキだった。
「ガトーショコラです。…あ、苦手だったりしますか…?」
「いんや、貰う。」
チョコレートケーキは苦手ではない。
むしろ好きな方に入る。
一口食べてみるとしっとりとした生地のほろ苦さが口いっぱいに広がった。
「うま…い」
俺の反応を見て心配そうだった彼女は安心した笑顔になった。
「よかった…!今度から出そうと思ったんですけど、お客さんの意見も聞いてみたくて…。」
なるほど、新商品か。
「うまいぜよ。これだったら毎日食べてもいいくらいじゃ。」
彼女の嬉しそうな笑顔に自分も頬が緩んだ。