文学の夢

□日常
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『ぎゃあああああああっ!!!!』




「!?」










****************

act.2 日常









バァン!



「大丈夫!?!?」






開け放たれた扉の音、焦った声、絶叫。


そんな諸々が響き渡る現在は、am.4:30。




本来なら、起きてるのはお年寄りと鶏くらいで、まだ皆寝静まっている筈の時刻。



そんな薄暗い中、ここの探偵社寮には今日も冒頭の如く素晴らしい大絶叫が木霊していた。





『あっ、敦ぃ!!たーすーけーてー!!』



「ん?あぁ、敦君おはよう。早起きだね。」





「………えっと、これどういうことですか。」










そんなこんなで騒ぎを聞きつけてやってきた彼、中島敦は今呆然としていた。






状況を整理するとこう。


名前の絶叫を聞く→飛び起きる→名前の部屋に駆けつける→太宰がいる






しかも太宰は布団の名前の上に覆い被さるような体勢で名前の腕を抑えつけている。

どこからどう見ても太宰が名前を襲っているようにしか見えない状況で、もう敦はどこから突っ込んでいいのか分からなかった。



「取り敢えず太宰さん、何でいるんですか。」



「何でって、野暮なこと聞くんだね。
見て分からないかい?夜這いだよ夜這い。」



『何自身満々に言ってんだコラ。』







名前は抑えられた腕をバタバタと動かして抗議する。

しかし太宰はそんなのは物ともせず、敦から名前に再び視線を戻しながらにっこり笑った。




「あぁゴメンね、そんなに急かさなくても大丈夫。さぁ、早く続きをやろう。」



『違ぇわ莫迦あああああ!!』




「(うわぁ…可哀想…。)」







敦は「(というか夜這いするのになぜ明け方来るんだよ)」と的外れなことを考えつつ、どうしていいか分からず諦めてもう傍観を決め込んだ。
(邪魔したところで理不尽に怒られるだろうし…。)





「(それに太宰さんだって大人なんだから流石に子供相手にそんなコトするわけ…)」




…と、思っていた時期が彼にもありました。



太宰は敦に何も言われなくなったのをいい事に、堂々と名前の首筋に顔を埋め、ぺろりと舐めた。




『ひんっ…!オイ太宰離せ!!!』



「えー?聞こえなーい。」



『てめっ、その使えねぇ耳削ぎ落としてやろうかコラ!!
ちょ、敦助け……ん、あっ』




「んー、相変わらずイイ声♪」





「ちょちょっ、ちょっと太宰さん!?」






敦は流石にこれは止めなければと思って、名前の声に真っ赤になりながらもガッと太宰の腕を掴んだ。

ピタッと、太宰の動きが止まった。





「名前嫌がってるじゃないですかっ!というか朝っぱらから盛らないでください!」



敦がそういうと太宰はゆっくり起き上がって、物凄く不服そうに敦をジト目で見た。




「こんな可愛い寝顔を見せつけられて盛らずに居ろと言うのかい?君もなかなか無茶を言うね。


それに私はこう見えて加虐趣向なので抵抗される方がそそられる!」




『何てことドヤ顔で言ってんだテメェはあああああああ!!!』





「そうですよ!!
てかソレ不法侵入しなけりゃ良いだけの話じゃないですか!!」






そう名前と敦が弾丸トークのように早口で責め立てると、太宰は ぶー、と言いつつもやっと名前の上から退いた。


名前は拘束されて赤くなってしまった手首を摩った。




「うーん、今日は動きを止める迄は上手くいったからイケると思ったんだけどね。
思わぬ邪魔が入ってしまった。」



『もう嫌だこいつ早く入水成功させろよもう。
自殺志願の美人紹介するからさっさと心中してくれよもう。』



「私は心中するなら名前が良i『滅べ』…酷い!」







名前は尚も変態発言してくる太宰にもう全力でドン引きして、急いで敦の後ろに逃げた。

それからひょっこりと敦の肩から顔を覗かせる。


…恐怖のあまり涙目だ。





『もうこれからお前のこと変態包帯無駄遣い野郎って呼んでやる。
二度と太宰さんなんて呼ぶもんか!』




「そうかい、じゃあ可愛らしく 治(はーと) と呼んでくれても…」




『死に晒せゴラァアァァァ!!』




「……太宰さん流石にそれは無いです。」



「敦君まで!?酷いなぁ。」






太宰はそう大して悪びれた様子も無く言いつつ、頭を掻いた。

彼のふわふわな茶髪が無造作に揺らされた。


それから彼は二人の冷淡な視線を浴びながらも立ち上がって、入り口まで行くと笑顔ですちゃっと片手を挙げた。




「じゃあする事も無くなったし私はちょっと新たな自殺法を試してくるよ。
二人とも、時間までには出勤するんだよ?」






そう言い残して最後にもう一度にこっと清々しい笑みを浮かべた彼は、まるで何事も無かったかのように普通に名前の部屋から出て行った。



……嵐のようだった。




それが何時もの事なのか名前は大して驚いた様子もなく只清々としているようであったが、敦は驚きで呆然として、暫く玄関を見つめていた。













*********

(太宰さんっていつもあんななの?)
(……うん。不本意ながら。)
(……苦労してるんだね。)
(分かってくれるか…!!)
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