文学の夢
□新たな仲間
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『ただいまー…。』
「あっ、おかえりなさい!」
「『……え??』」
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act.1 新たな仲間
ちゅんちゅん。
そんな可愛らしい小鳥の歌声が聞こえる穏やかな昼下がり。
ぽかぽかしてて気持ち良い、そんな最高のピクニック日和なのにも関わらず、
ここ武装探偵社には殺伐とした空気が漂っていた。
『オイ!!どういう事か、説明してくれるんだよなァ、太宰さん???』
「あはは、落ち着いて落ち着いて。」
『てめっ、誰のせいだと思ってんだこの死に損ない野郎!!!』
こんにちは、俺は苗字名前。
今、俺は猛烈に、激烈に、この目の前の男をぶん殴りたい気分です。
「厭だなぁ、名前。
私だって悪かったとは思ってるんだよ?」
そしてこいつが災いの原因。
このへらへらした男は俺の仕事仲間であり悪友でもある太宰治。
ここ武装探偵社で働いている異能持ちの一人だ。
それでいて自殺趣向で…
まぁそれは良いとして。
何故今俺が奴にキレているかと云うと。
『絶対悪いと思ってねぇだろ莫迦!!
アンタの事だからどうせ俺の反応が見たいとかでわざと連絡しなかったんだろ!
新入りが来てる、しかも寮の部屋変わったなんて大事なこと忘れる筈ないしな!』
そう、こいつが俺に全くと云っていい程連絡をよこさなかったことに頭にきているのである。
どうやら俺が依頼で長期間東京に行っている間に新入りさんが来たらしく。
まぁそれを教えなかったのはまだ良いとして。
その新入りさんが社員寮使う関係で俺の部屋の場所が変わって?
なのに太宰さんが教えてくれなかったからそのまま前の俺の部屋に入ったら新入り君がいて驚かせちゃって?(冒頭のはそれ)
しかも当の太宰さんはそれを愉しんでるだと??
『やっぱりゴミだわ太宰さんアンタ!!ゴミ!虫ケラ!紙屑!!』
「うわ名前そんな言葉何処で覚えてきたんだい!」
まぁ名前に云われても興奮するだけだけどね とか本気で気色の悪い事を云う太宰さんを全力冷たい目で睨んでから、俺は乗り出していた身をソファに沈めた。
ここのソファは相変わらずふかふかだ。
うちの探偵社にはよくマフィアだの何だの乗り込んできて家具とかめちゃめちゃにするけど、このソファは毎回何だかんだで壊されずに済んでる。
座り心地も最高だし、そのタフさもあって何気俺のお気に入りだ。
折角の2人掛けだけど、太宰さんなんかには絶対座らせないぞ。
俺は落ち着いてきたところで一カ月半程ぶりの探偵社をぐるぐる見回した。
うん、心配だったけど乗り込みとかはなかったみたいだな、良かった。
(あ、乱歩さんのデスクのサボテン、ちょっと大きくなった?
いや、そんな早く成長する植物じゃないし気のせいか。)
俺は太宰さんに淹れさせた紅茶を啜りながら一息ついていたが、その時視界の端に良い姿勢で座る少年をみとめた。
多分同い年くらいかな?例の新入り君で、どうやらまだこの社に慣れていないようで少しおどおどしていた。
あと少し申し訳なさそう。
俺は太宰さんに怒ってる訳だけど、まぁ割と関係はあるし罪悪感でも感じてんのかな?
なんか動物みたいな子だな〜と思いつつ、俺はティーカップを置いて少年に手招きした。
『おーい。もう太宰さんと話はつけたから少年もそろそろこっちおいでよ。』
「えっ!あ、うん…!」
俺が呼ぶと少年は慌てて立ち上がってこっちに寄ってきた。
少年の右側だけ伸ばされた綺麗な銀髪がふわりと靡く。
金色の大きな瞳はくるりと俺を捉えた。
『……これは賢治くんに続く癒し登場か?』
「え…?」
『あーいやいやごめん何でもない。ほら、ここ座りなよ。』
俺はソファを半分開けてそこをぽんぽん叩いた。
ぽふぽふと音を立てるソファに少年は意図を汲み取って、俺の横に恐る恐る腰掛けた。
「失礼します…。」
「なっ…、なんということだ敦くん!
そこは私も座ったことがないのに…!」
『はいはいうるさいよ太宰さん。
で、君名前は?』
俺はなんか叫んでいる太宰さんを適当にスルーにてにこりと少年に笑いかけた。
「あ、中島敦です。」
少年は少し緊張をといてそう答えた。
うん、探偵社には珍しい真面目そうな子が来てくれて名前さん嬉しいよ…!!
『俺は苗字名前。
名前って呼んでくれ。
多分この探偵社じゃ俺たちが一番歳近いと思うしさ、仲良くしようぜ!よろしくな!』
「う、うん!僕のことも敦でいいよ。よろしく。」
俺が手を出すと、敦も手を握り返してくれた。
うん、やっぱこの子癒しだわ。
意外と可愛いもの好きの俺としては癒しが増えるのは大歓迎だ。
太宰さんが連れてきたんだっけ?たまにはいい仕事するね、太宰さんも。
俺はまた一口紅茶を啜った。
『あ、そういえばさ、何で部屋変えたんだ?
俺が前住んでた部屋が一番狭いんだし、他空いてるのに何でわざわざあそこを敦の部屋に?』
「あ、それは僕からお願いしたんだ。」
俺の言葉には敦が一番に応えた。
でもその意味がまた分からず俺は首を傾げる。
「僕、一文無しだし取り敢えず何処か寝床があれば良くてさ。
だから社員寮の一番狭い部屋で良いって云ったんだ。
そしたらそこが名前の部屋だったみたいで…。」
『……なんて謙虚なんだ!!』
俺は敦の肩をガッと掴んだ。
敦は驚いてビクッと肩を跳ねさせる。
だって…だって!!
こんな謙虚で良い子が探偵社に来てくれたなんて!!
(太宰さんとか見てれば分かるだろ?)
俺は思わず溢れそうになる感涙を拭う素振りをする。
『ああ…太宰さんもこれくらい謙虚で良い子だったらいいのに…。』
「えー、それ私より乱歩さんに言った方が。」
『乱歩さんは良いに決まってんだろ莫迦!包帯!』
「何この扱い!?」
俺はなんか悄気だした太宰さんをまたまた華麗にスルーして、敦の方へ向いた。
それから、敦はまだ戸惑っているようだったが、彼と目が合うと満面の笑みで云ってあげた。
『探偵社に、ようこそ!!』
(可愛い…////)
(私も、名前が心中してくれるって云うなら喜んで謙虚で良い子になるのにね…)
(あっ、因みに敦君、こう見えて名前は18だよ)
(えっ…!)