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□始まり
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朝の登校風景。
生き生きとした学生達が朝の挨拶を交わし会うなか、憂鬱な声が響く。

「ありえない…。」

莢は最近、この言葉が口癖になっている。今日の朝も、起きると目の前にシエルが正座していた。

「何回も言ってるじゃんシエル! 寝ないで見張りは止めて!」

「心配しなくても俺は寝不足なんてものにはなりません。」

「そっちの心配じゃないし! お、乙女の寝顔を見るなんて!」

「オトメなんて奴の寝顔など見てません。 ちゃんと莢様の寝顔を見ておりました。」

(こいつは天然なのか? わざとなのか?!)

本気で話しの通じないシエルに最近ではツッコむことさえ憂鬱だ。

「さーやっ!!」

「鈴…おはよー。」

今、莢は学校へ通っている。あの後シエルが正式に莢のボディーガードとなり一緒の学校へ通う手続きも終え、オマケに親せきの男の子として1つ屋根の下に住んでいる。
朝から晩まで天然シエルと一緒…。莢は疲れきっていた。

「今日も素敵だねー…シエル君。」

「鈴、よだれ出てるよ。」

シエルの容姿は思いの他目立ち、立て続けに美形男子が転入して来たうちの学校は、「全国イケメン高校生」と言う雑誌で上位におどり出た…。

「雨月!」

「おはよー真神。」

ニコニコと莢に挨拶をしてきた真神だが、ある人物を見つけた途端、眉間にシワが刻まれる。
「よぉ…シエル。」

「…。」

「シエル! 返事くらいしなさいよ!」

シエルは挨拶する事なくそっぽを向いた。こんな風に、真神とシエルは目が合うたびに険悪ムードだ。

「雨月。シエルとの生活はどうだ?今日で3日目だっけ。」

真神がコソコソと小声で話し掛けてくる。彼は莢の護衛プラス、シエルの生態調査、と仕事が増えた。毎朝様子を聞かれるのが習慣になりつつある。
シエルとの生活はシエルの異常な護衛心以外思っていたほど不自由はなかった。
何より、シエルは私達と言葉が通じる。文字はミラージュの文字しかわからなかったが。数学や化学の授業は天才的で、変わりに国語や歴史などは当たり前だがさっぱりで、「外国生活が長い」の嘘でそこはなんなくクリアしている。ようするに、問題なく学生生活を過ごしているのだ。

「特に以上はないけど、この頃プライベートも何もあったもんじゃないの…。」

「まさか着替え覗かれたとか?!」

「それはないけど、寝顔は覗かれた…。」

「……。」

妙な沈黙が流れる。
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