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□日常
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北海道沿岸、オホーツク海。
まだ肌寒い2月。
この日も空は灰色で普段から暗い色をした海は一段と深い黒色をしていた。


「今日は随分海が静かだな」
仕掛けた網を引き揚げながら男は言った。

「俺達、漁師には好都合じゃないっすか?」
部下の最もな質問にも答えずに男は引き揚げる手を止め、海を見渡した。


そこには、30年間見慣れた海が広がるだけだ。
「気のせいか…。」
そう言って仕事の続きに取り掛かろうとした時だった。


「船頭! ちょっと来て下さい!」
操縦席から部下の一人が飛び出してきた。何時もとは違う声色に何事かと駆けつける。

「どうした?」

「あの、その」
言葉を濁らせて、とにかく見てほしいと言った。

部下の指さすものは魚探知機。そして、そこに映し出された黒い塊に背筋が凍りつく。

「なんだ…これ…?」

男はもう一度、画面を確認した。しかし、黒い塊はなおもそこに映し出されている。

塊は大きさからいって学校ほどもある。この海で漁師になって30年ほどになるがこんなものは見た事がない。いや、昨日まではなかったものだ。


「なんだ…これ…?」

今日二回目の言葉を口にした。


+++++++++++++


「雨月」


晴れ晴れとした空の下、朝の教室に声は虚しく響いた。

「雨月、雨月莢!」


二度目の読み上げにも返事はない。担任が次の生徒の名前を読もうとした時だった。

『ガラガラッ! ダン!』


教室の扉を吹き飛ばす勢いで少女が駆け込んできた。
大きな瞳にそれを際立たせる
ベリーショートの髪。身長はすらりと長い。

「はい!」

ひと言大きく返事をすると、よほど急いできたのか息を整える。

「いつもギリギリで間に合うのは感心するが、あと5分速く登校すればいいだけだろ?」

名前から言って出席をとるのは始めの方だ。

「はい…。すいません」

ボサボサの髪もそのままに席につくと、背中をつんっとつっつかれる。

「おはよ! 今日はなんで遅刻?」

後ろの席で親友の『上野 鈴』がふわふわの笑顔で話しかけてきた。

「おはよー、鈴。遅刻しないって約束したのにごめん。今日もただの寝坊…。」

「なんで起きれないのかなぁ? でも、こっちは帰りにご馳走食べれてありがたいけどねぇ♪」
「うぅ…。」

鈴とは遅刻したら何かおごる約束をしていた。彼女は今月に入って3回チョコパフェをたいらげた事になる。
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