短編集
□序章
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それは時に消えた伝説。
遠い時の向こうで起きた悲恋。
引き裂かれた恋人たち。
だれもその真実を伝えなくても、それは間違いなく真実で、過去に起こった現実だった。
「約束するよ、瑠璃。何度生まれ変わってもぼくはきみを捜す。そうして今生では果たせなかった夢を果たすから。何度死んでもぼくらは生まれ変わって出逢うから」
それは果たせなかった夢を誓う永遠の言の葉。
果たせなかった夢の欠片が時の向こうで煌めいている。
時は刻む。
幾多の夢を願いを飲み込んで時を刻む。
そうして何度繰り返されるのだろうか。
悲劇は。
何度出逢って何度引き裂かれて、それでも願いは果てることがない。
その度に誓われる永遠の言の葉。
再会を誓う言葉。
望みは果たされることがない。
愛し合うことが罪だなんて言わせない。
いつかきっとこの夢を果たしてみせる。
魂に刻まれた願い。
そうして時の輪廻は再び運命の輪を回す。
「だからさあ。昔この辺に凄くおっきなブラクっていうの? そういうのがあったんだって。でも、神の怒りに触れて一夜にして滅んだって」
「でもさ。それが本当なら一体なにをして神さまに怒られたのかな?」
「おまえに言われると父ちゃんや母ちゃんに怒られた、みたいな次元の話に聞こえるのはなんでかな? おまえって時々変に大人びてるかと思うと、呆れるくらい子供なときもあるよな。変な奴ぅ」
「そうかな?」
「胡蝶。引っ越してきたばかりの街で遠くに行ってはダメよ?」
「平気だよぉ」
不思議な感覚。
(懐かしい)
『ずっと待っていた』
不意にそんな言葉が浮かぶ。
そうしてその娘が微笑んだ。
当たり前の約束された光景のように。
「わたし胡蝶っていうの。ねえ。あなたはだあれ?」
「ぼくは……」
出逢いから繰り返す神話。
運命という名の愛が再び動き始める。
時の輪廻はこうして再びの出逢いを刻む。
動き始めた歯車をだれもが知らぬままに時は過ぎていく。
掴めない夢の欠片がキラキラと煌めいている。
掌から指の隙間から溢れ落ちていく夢の欠片を掴み取ろうとする。
その儚さが現実なのかも知れなかった。