短編集

□序章
1ページ/1ページ






 それは時に消えた伝説。

 遠い時の向こうで起きた悲恋。

 引き裂かれた恋人たち。

 だれもその真実を伝えなくても、それは間違いなく真実で、過去に起こった現実だった。

「約束するよ、瑠璃。何度生まれ変わってもぼくはきみを捜す。そうして今生では果たせなかった夢を果たすから。何度死んでもぼくらは生まれ変わって出逢うから」

 それは果たせなかった夢を誓う永遠の言の葉。

 果たせなかった夢の欠片が時の向こうで煌めいている。

 時は刻む。

 幾多の夢を願いを飲み込んで時を刻む。

 そうして何度繰り返されるのだろうか。

 悲劇は。

 何度出逢って何度引き裂かれて、それでも願いは果てることがない。

 その度に誓われる永遠の言の葉。

 再会を誓う言葉。

 望みは果たされることがない。

 愛し合うことが罪だなんて言わせない。

 いつかきっとこの夢を果たしてみせる。

 魂に刻まれた願い。

 そうして時の輪廻は再び運命の輪を回す。

「だからさあ。昔この辺に凄くおっきなブラクっていうの? そういうのがあったんだって。でも、神の怒りに触れて一夜にして滅んだって」

「でもさ。それが本当なら一体なにをして神さまに怒られたのかな?」

「おまえに言われると父ちゃんや母ちゃんに怒られた、みたいな次元の話に聞こえるのはなんでかな? おまえって時々変に大人びてるかと思うと、呆れるくらい子供なときもあるよな。変な奴ぅ」

「そうかな?」

「胡蝶。引っ越してきたばかりの街で遠くに行ってはダメよ?」

「平気だよぉ」

 不思議な感覚。

(懐かしい)

『ずっと待っていた』

 不意にそんな言葉が浮かぶ。

 そうしてその娘が微笑んだ。

 当たり前の約束された光景のように。

「わたし胡蝶っていうの。ねえ。あなたはだあれ?」

「ぼくは……」

 出逢いから繰り返す神話。

 運命という名の愛が再び動き始める。

 時の輪廻はこうして再びの出逢いを刻む。

 動き始めた歯車をだれもが知らぬままに時は過ぎていく。

 掴めない夢の欠片がキラキラと煌めいている。

 掌から指の隙間から溢れ落ちていく夢の欠片を掴み取ろうとする。

 その儚さが現実なのかも知れなかった。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ