短編集

□第五章 ラスターシャの王子
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「へえ。それで妖魔の騎士の協力が、ね」

 翌日になって目覚めたラーダに事情を打ち明けたのはグレンだった。

 ショウはどこか遠くを見ていて自分からはなにも言わなかった。

 やっぱりバレてるのかな? と思う。

 だから、ラーダがこんなに弱っているときに自分からは頼めないとか。

 でも、ショウがなにも言わないなら、気付いていない可能性もあるから、ラーダからは言えないし。

 気付いていないのなら気付かれたくないから。

 ショウは変わらないと信じたい。

 でも、信じるのも怖い。

 好きになってしまったから、この気持ちが叶わないと突き付けられるのが怖いのだ。

(そうだ。俺、ショウが好きなんだ。この気持ち。どうしよう。伝えられるものなら伝えたいけど、俺にそんな資格あるのかな? ラスターシャ王家から国も王位も取り上げた俺に。妖魔であるこの俺に)

 グレンは、ネジュラ・ラセンは妖魔であることも承知してラーダを選んでくれた。

 あのときと同じことが起きるかどうか、ラーダには自信がない。

 そもそも同性同士みたいな付き合い方だったのだ。

 今の段階でショウに意識されているとは思えない。

 伝えたら正体がバレていなくてもフラれるかもしれない。

(フラれたらどうしよう。俺……)

 泣きそうになっていると不意にショウが振り向いた。

 勘は鋭いのだ、ショウは。

「どうしたんだ、ラーダ? そんな顔で俺を見て」

「……なんでもない」

「なにがなんでもないんだよ? 今にも泣きそうな顔してるよ?」

「ショウが苛めるよぉ」

「は? 心配してるだけだろ、俺は。どうして苛めてるなんて言われないと……」

 ふたりのやり取りを見ていたグレンは、ショウの余りの朴念仁ぶりに呆れていた。

 ショウはラーダの気持ちに気付いていないのだ。

 ラーダの方はおそらくショウが好きだから、これからのことを考えて、あんな顔をしてるんだろう。

 そのことに気付かないショウは、かなりの朴念仁だ。

「おまえ。かなりの朴念仁だな、ショウ」

「は? なんでそっちから責められないといけないんだ?」

 真剣にわけがわからないと言いたげである。

 だが、これは割り込んでも仕方ないと、グレンからはなにも言わなかった。

 泣いていても仕方がないと、ラーダはふっと息を吐いた。

 窓辺に黒衣を身に纏い、黒い幅の広い仮面をつけた妖魔の騎士が現れる。
「さっきの話の件だが」

「妖魔の騎士っ!?」

 ショウも驚いて振り向き、すぐにそれが幻影であることを知った。

 いや。

 分身というべきだろうか。

 どんな力を使っているのかは知らないが、あれはラーダではない。

 敢えて言うなら身代わりだ。

 ラーダは昼の姿と夜の姿で同時に存在しなければならないとき、こういう手を使うのか。

 上手い手だ。

 これなら余程力のある魔法使いでもないかぎり、彼が偽者だとは気付かないだろうから。

 でも、ラーダは平気なんだろうか。

 こんな状態で力を使ったりして。

 気になったので振り向けば、やはり顔色が悪くなっていた。

(無理をして)

 心配そうに瞳が陰る。

 しかしここでは身代わりのラーダを見た。

「いつから話を聞いていたんだ?」

「ついさっきだ。どうやらラスターシャの王子が、メイディアに合流したようだったからな。俺の方からも気を付けて見ていたんだ」

「……どうして」

「その王子は知らないだろうが、ラスターシャ王家の者と俺とは友好を結んだ間柄だ。だから、この間もすぐに助けに入ったんだ」

「そうだったのか。それでレジェンヌには宴の記録がなかったんだな?」

「そういうことだ。レジェンヌでは宴はやらないと誓ったからな」

 知らないことはあるものだ。

 ショウが知らないということは、おそらく歴代の世継ぎたちも知らなかっただろう。

 代々語り継がれていたなら、ショウも聞いているはずだから。

 ということはラスターシャ王家の者と妖魔の騎士が友好を結んだのは、かなりの昔だということだ。

 それなのに今も守ってくれるなんてラーダは律儀だ。

「俺で力になれるならなろう。機会を作ってくれれば俺はその場に現れる」
「妖魔の騎士」

「それがラスターシャの王子の望みなのだろう?」

「でも」

「余計な心配はいらない。不都合はなにもないからな。闇神に楯突いたところで今更だ」

 そういう意味じゃないんだ、ラーダ。

 俺はおまえの身体を心配してるんだよ。

 言いたくて言えなくてショウは唇を噛む。

「そちらの準備が整ったら俺は現れる。約束は違えない。安心していればいい」

 言いたいことだけ言ってラーダの姿は消えた。

 ふっと姿が消えたのだ。

 限界がきたのかとショウがラーダをみると、ラーダは大きく息を吐き出していた。

 やっぱり堪えたらしい。

 そんな状態でも協力すると言ってくる。

 申し訳ない気分で一杯だった。

「よかったね、ショウ。妖魔の騎士が協力してくれることになって。これで百人力だよ。きっと現場でも護ってくれるから」

 ショウにはこのラーダの言葉はこう聞こえていた。

『どんなことがあってもショウは俺が護るから』

 と。

 半死半生の状態だったのはつい昨日のことだというのに、そんなことを言ってくれる。

 本当に申し訳なかった。




 それから準備が整うまでにかかった日数は3日。

 これはレジェンヌに関わることなのだが、ショウが関わっているため、グレンはレジェンヌ側の介入を断った。

 これには一揉めあったらしいが、一先ず、現場にはレジェンヌの者は立ち入れなくなっている。

 その現場にショウはやってきた。

 屋敷にラーダを残して。

 ラーダは気を付けてと言っていた。

 それはショウが言いたい言葉だったのに。

 大地に魔方陣が敷かれている。

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