蒼き瞳の守護神 外伝
□序章
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世界がまだ創世記と呼ばれていた時代。
戦乱に明け暮れる世界に、ひとりの少年が姿を現し覇権を握った。
後に神帝と呼ばれた世界最古の覇王の誕生である。
伝説では英雄王と呼ばれる彼が即位した後も、世界は戦乱に染まっていた。
その多くは戦いに敗れた者たちの、敗者復活戦のようなもので、戦乱時の名残のようなものだったが。
民衆に望まれて帝位に即位した少年は、その人望に相応しく戦乱のその昔、名を馳せた武将たちを魅了し、交戦することなく配下に従えた。
しかし中には徹底交戦の構えをみせた名将たちもいて、その中のひとりが後のリーン王国の国王、レオンハルトであった。
彼が即位した後の戦いの多くは、レオンハルトを筆頭とする者たちとのあいだで繰り広げられたという。
力の差は歴然としていた。
神帝の力は人間離れしていたし、なによりも彼は不死者であった。
年若い少年の姿をしていたが、年齢は正真正銘、不詳だったし、どれほどの時の流れも、彼を老いさせることはなかった。
所詮、一介の人間に敵う相手ではない。
そのことはレオンが1番知っていた。
戦場で傷つき倒れたレオンを、その力で癒し救ったことさえある。
民たちが彼を生き神と崇め敬う気持ちもわからないわけではなかった。
彼の王としての器を認めていないわけでもない。
覇権をかけて戦った最後の戦いで敗れたとき、レオンは彼を認めた。
世界に君臨できる覇王として。
だが、レオンは即位の後も戦いをやめなかった。
剣を交える度に少年王は苦い顔をしていたが、何度敗れても諦めることなく挑んだ。
あるとき、彼はこう言った。
戦場で倒れたレオンに向かって。
「もうやめないか、レオン? これ以上の戦いは無意味だよ」
柔らかく優しい声で、血にまみれ倒れふすレオンにそう言った。
片手に握った細身の剣には、レオンの赤い血が滴っていたが、彼の端正な面差しに浮かんでいるのは、果てのない憂いだけだった。
『レオンとは戦いたくないんだよ、俺は』
それは彼の口癖だった。
戦場でまみえる度に繰り返した科白。
黒髪をひとつに束ねたレオンは、同じ色の黒い瞳で空のような彼の眼を覗き込み、きつく唇を噛んだ。
蒼く澄んだその瞳にはひとかけらの濁りさえない。
どこまでも綺麗に澄んだ青空のような瞳。
これほど蒼い瞳をレオンは彼以外に知らない。
後に神格の瞳と呼ばれることになる、たぐいまれな瞳の色だった。
太陽の光さえ跳ね返す黄金色の髪もまたこの少年以外に眼にしたことはない。
その美貌もまた。
端正な面差しも黄金色の髪も、そして蒼い瞳も、なにもかもが彫像のように人間離れした少年だった。
苛烈の気性を持ちながら思いやりの心も忘れない。
彼と友になれたなら、どれほど安らかな気持ちになれただろう?
これは何度もレオンが噛みしめた後悔だった。
休戦することは何度もあった。
だが、ふたりが和解することは遂になかったのである。
レオンを殺したくなかった少年神帝が、苦肉の策で選んだのが、リーン王国の建国だった。
独立国家を認めることで、レオンに戦いをやめさせようとしたのだ。
その当時、レオンには彼を慕い従ってくれる配下が数多く存在した。
人望もその力も、なにもかも神帝の方が上手だったが、レオンも決して慕われていないわけではなかったのだ。
レオンが無意味な戦いを続け、いたずらに死期を早めれば、同じく死を選ぶ者が大勢いた。
神帝の意外とも言える申し出は、情に篤いレオンには無視できないものだった。