勇気をください

□3*背中を押してやる
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「シカマル」

一人で屋上にいたシカマルは寝転がって空を眺めていた。
今日は雲一つない晴天だ。

そんなとき、聞き慣れた声が聞こえた。
そっちを見なくても分かる。


「どうした?」


シカマルの隣に黙って腰を下ろしたのは
幼なじみのいの。
一人で屋上に来ることなんてめったにない
彼女がなぜここに来たのか。


「何かあったのか?」

「いや、別に…………」


いつもの賑やかないのとは違い、
落ち着いていた。
そういうときは、いつも何かあるとき。

「三山のことか?」


図星だったようで、いのは勢いよく顔を
こちらに向けた。

「シカマルも知ってたの?」

「結構噂になってたからな」

知らない奴なんていないんじゃないかってくらい広まってた。




「………さっき告白された」

覚悟していたが、はっきりそう言われると
その言葉が刺さる。

あの噂は本当だったのだ。

「付き合うんだろ?」

「……実は、まだ返事してないの」

てっきり、その場で返事をしているものだと思っていた。
いののことだ、人気者に告白されて悩むような奴じゃない。



「なんか、言葉が出なくて。つい…」




──返事……待ってもらえますか?

そう言ってしまった後の三山の表情を思い出す。
期待と不安で押しつぶされてしまいそうな…
そんな感じ。



「すぐOKするもんだと思ってたぜ」

「そんな軽い女じゃないわよ!
ただ、三山君のこと何も知らないし…」


知っているのは評判だけ。
話したことだってなかった。
かっこいいとは思ってたけど、どちらかと
言えばサスケ君の方が顔は好みだったし。

だから全然、彼のことを知らない。


『よかったら僕と付き合ってくれないかな?

僕のことまだ好きじゃなくてもいいから、
付き合ってみて、僕のこと知っていって……
好きになってくれると嬉しいな』


頭の中で繰り返される三山からの告白。


「どう思う?」

三山が言っていたことは正しいのだろうか。

「確かに一つの方法ではあるんじゃねぇの」

ま、オレはそういうの好きじゃねぇけどな。

シカマルはそう付け足しながらも、三山の言葉を否定しなかった。

「今時、みんな良さそうな奴に告白されたら
OKするもんなんじゃねぇの」

「その言い方やめてよー。まぁ間違いではないけど」



確かに別に好きでもなかったけど告白されたからって付き合ってみて、
ずっとうまくいってるカップルもいる。



「いのが三山のこと嫌いでもないんなら、
三山の言うとおりにしてみたらいいんじゃねぇか?」

「…………そうね」


何を私は悩んでいるのだろうか。
学年でもトップを争うイケメンに告白されるなんてすごいことすぎて、ソッコーOKする。

しかも、顔がいいだけじゃなくて
何でもできて評判もいい。

普通なら舞い上がって、みんなに自慢しちゃうだろう。

なのに…
どうして、私は彼の返事をすぐに返すわけでもなくシカマルのところへ来てしまったのだろうか。

シカマルに会って何がしたかったのだろう。




いったい私は
彼に何を言ってほしかったの?




「ありがと。ちゃんと返事してくる」

「……あぁ」

前を向いたまま、二人は目を合わせることもなく、いのは静かに屋上を離れた。

いのが玄関に行くと、そこには三山がいた。


「三山君、どうしたの?」

「いや……まだいのちゃんが帰ってないみたいだったから。一緒に帰ろうかなと思って……。

返事もらってないのに図々しいよね。
でも、考える前に僕のこと少しは知ってほしくて…」

すべて言い終えるまでに彼の顔は真っ赤になっていた。
こんなに緊張している三山を見たことないといのは思った。

何かと率先して学校の行事に参加している
三山は人前に出ることが多い。

全校の前で発言する機会も他の人よりある。
でも、いつも彼は冷静で、緊張なんて少しも見せない。

そんな彼の意外な一面。

「ごめんね……でも、僕本気なんだ。好きだから」

こんなにストレートに告白されたのは初めてで…

なんかこの言葉だけで不思議と自分がすごく
愛されてる気分になった。

きっと、三山君は本気で私を好いてくれている。

「三山君」

「はい!」

「私、ほんとに三山君のこと何も知らない。
好きとか、そういう感情は今はなくて
……それでも」

「それでもいい!」

「さっきも言ったけど、僕のことはこれから知っていって…それで好きになってくれたらいい。

もちろん、やっぱり嫌になったら振ってくれてもいい!だからっ」

あまりに必死な三山の姿を見て、いのは思わず笑った。
こんなに緊張して慌てた彼を見れたのは
私が初めてなんじゃないかな。

「一緒に帰りましょ」

「えっ……あっ、うん」



いのが玄関を出ると後ろからすぐに三山もついてくる。
やっと二人が並んだところでいのは彼の目を見た。

「……お願いします」

歩き始めたばかりなのに三山の足が止まる。
また顔が赤くなっている。

「それって……OKってこと?」

いのが小さく頷くと、三山はほんとに嬉しそうに笑って見せた。
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