Short Story

□未知なる世界を染める色
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自宅に着くと、疲れた感覚も無いのに自然と溜め息が零れた。と同時に、見覚えのある靴が目に入って、息が止まる感覚がした。

しばらく玄関で見慣れたそれを見ていたけど、真実を確認するために震える足でリビングに向かった。

だって、いるはずがないのだ。
あの人が、ここにいるはずがない。


リビングへと続く扉を開ける。
そこには、ふてぶてしくソファに座る一つの影があった。


「……おーの、さん?」
「あ、かずぅ」


あの人の瞳に呆けている自分の姿が映る。その瞳に、今いる世界に引き戻されていく。


「な……何で、いるの?」


率直な疑問だった。
何でこの人は俺の家にいるんだろうか。

あなたの居場所は、ここじゃないんじゃないの?
あなたは今の自分との繋がりを全て断ち切って、見つけた居場所に行ったんじゃなかったの?


「かずに会いたくなかったからに決まってんだろぉ」


さも当然のように言うその姿が、今の俺のぐちゃぐちゃな感情とちぐはぐで。
同じ世界に存在しているはずなのに、この人の取り巻く色は全然違う色を放っている。


「だ、って……連絡、取れなくなったって…マネージャーが焦ってたよ……?」


震える声で伝えると、あぁ、とどうでもいい事を思い出したかのように口を開いた。


「邪魔されたくなかったから、携帯の電源切ってた。今日どうせオフだし」
「オ、オフだからって、連絡取れないのはだめでしょうが……!!」
「ん〜そっかぁ」


どれだけ周りの人間に心配かけたと思ってんの、という頭に浮かんだ正論は音にはならなかった。この人には言っても無駄だ。俺たちとは違う次元に存在しているような人だから。

 
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