Short Story

□switch on
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褒められたのが余程嬉しかったのか、ふにゃっとした笑顔を浮かべる。そんなに喜ばれると何だか気恥ずかしい。


「普段やる気無さそうなのに、ああいう時は凄いですよね」


気恥ずかしさを紛らわすために軽口を叩いてみても、大野さんの表情は変わらない。


「……顔が緩みまくってますよ」
「だって、嬉しいんだもん」
「そんなに嬉しがるような事でもないでしょ」
「かずが褒めてくれたら、凄く嬉しいよ」


顔が赤くなっていくのが分かる。
俺と違って真っ直ぐに感情をぶつけてくるこの人に、多分俺は一生敵わないんだろう。


「あれ、何であんなに頑張ったか分かる?」
「……勝ちたかったからでしょ」
「かずに褒めてもらいたかったから」
「は?」
「かっこいい所見せたら、かずが褒めてくれるかと思って」


いや、何を言っているんだ、この人は。


「おれが勝った時、真っ先に『さすがリーダー!』ってかずが言ってくれただろ?あれ、すげぇ嬉しかった」


確かに、大野さんが勝利した時、思わず反射的に大声を出していた。だって、本当に凄いと思ったから。
だけど、そんな事でこんなに喜ばれるとは思っていなかった。


「かずがいるから、おれ、頑張れんの」
「……番組のために頑張ってくださいよ」


赤い顔で言った所で、俺の言葉に威力なんて大して無いんだろうけど。

顔を隠すように俯いた俺の耳元で囁かれた言葉に、弾かれるように顔を上げると、酷く優しい瞳と視線が絡まった。その瞳に導かれるように、大野さんの胸に顔を押し付ける。

こんな事を思ってはいけないんだろうけど、どうか、まだみんなが戻ってきませんように。



((かずの言葉が、おれの力の源だよ。))



End.

 
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